妊娠と有機溶剤の曝露について
先日、仕事で「有機溶剤」を使っている方から妊娠に対する影響を質問されたので、少し文献を調べてみました。
Kristen I. Mcmartin MSc,et al.: Pregnancy outcome following maternal organic solvent exposure: A meta-analysis of epidemiologic studies, Am. J. Ind. Med. 34:288–292, 1998.
この論文では7036人の調査をしたところ、有機溶剤に曝される仕事をすることで奇形の確率が1.64倍になり、2899人の調査で流産の確率が1.25倍になりました。
Attarchi MS1, Ashouri M, et al.: Assessment of time to pregnancy and spontaneous abortion status following occupational exposure to organic solvents mixture. Int. Arch. Occup. Environ. Health. 2012 Apr;85(3):295-303
この論文では、有機溶剤に曝される仕事の女性では流産率が10.7%になり、有機溶剤に曝されない女性では流産率が2.9%となりました。2.9%というのはさすがに低すぎるので、何か他の原因も関与している可能性はありますが、有機溶剤が流産率を上げる可能性はありそうです。
いずれの論文も、「有機溶剤に曝される仕事かどうか」という大まかな分け方であり、どの程度曝されると問題なのか、というところまでは分析されていませんでした。
そこで、「有機溶剤に曝される程度」について分析されている論文を調べました。
Sohail Khattak et al.: Pregnancy Outcome Following Gestational Exposure to Organic Solvents, JAMA. 1999;281(12):1106-1109.
職業上、有機溶剤を扱っている125人の女性に対して調査したところ、胎児の奇形リスクが13倍にもなった、という結果になりました。
詳しく見てみると、有機溶剤による有害な症状(眼や呼吸器系への刺激、呼吸困難、頭痛など)があった75人の女性には胎児に奇形が生じましたが、そういった有害な症状が出なかった43人の女性の中には1人も奇形の胎児がいなかったのです。
また、有機溶剤を扱っていた期間を7ヶ月以上の群と、3~7ヶ月の群に分けて分析したところ、7ヶ月以上の群では、16人の胎児が出生時に蘇生処置が必要となった一方で、3~7ヶ月の群では、1人しか蘇生処置が必要になりませんでした。
以上のことより、妊娠中の女性が有機溶剤を扱う仕事にはデメリットがあるのですが、それは有機溶剤に関わる期間の長さであったり、防護マスクや換気によって有害な症状が出ないように管理されているかどうかが、とても大切なことがわかります。
職場によって、有機溶剤に対する防護や換気の状況はまちまちだと思います。
妊娠を機に職場の配置転換が可能であればいいのですが、もし配置転換も厳しく、換気が不十分な環境であれば、妊娠を理由に環境整備を申請してもらいたいと思います。
バルトリン腺の腫れについて
デリケートゾーンの痛みについて、以前ブログを書いたのですが、その中でも
バルトリン腺
について、まとめたいと思います。
バルトリン腺とは、腟の左右に1つずつある粘液を分泌する部分です。その粘液が出てくる部分が何らかの原因でつまった場合に、バルトリン腺から出口に向かう管の部分が腫れてしまって、症状を引き起こします。
まず、小さくて症状が軽い場合には、何もしなくて大丈夫です。自然に無くなってしまうこともありますし、小さいまま放置していても、特に問題になることはありません。
「小さい」基準ですが、だいたい親指大くらいです。これくらいの大きさだと、次に説明する「穿刺」と言う処置をしても、あまり効果的に中身を抜けないことが多いので、経過を診ることが多いです。
ただ、ある程度大きくなって違和感が強くなったり、中にバイ菌が入って痛みが強くなった場合には、外来で「穿刺」して、中身を抜いてしまった方が早く楽になります。
外来で簡単にできる処置なので、あまり違和感が強かったり、痛みが強い時には、相談にいらしてください。
「簡単な処置」と言っても、針を刺さないといけないので、どうしても「針を刺す」痛みはありますが、その痛みを乗り越えれば、中身が抜けて楽になることが多いです。
このように「簡単な処置」で中身を抜いたとしても、繰り返して腫れてしまうことが多いのが難点です。
頻繁に繰り返す場合には、局所麻酔をした上で、バルトリン腺の出口を作ってあげることもあります。
開窓術
や
造袋術
とも言いますが、簡単な「穿刺」よりも再発リスクは低くなります。
最後に、根本的に治す方法としては、バルトリン腺そのものを取ってしまう手術があります。これは、本格的な手術になるので、入院して手術することが多いです。
造袋術や開窓術、根本的に取ってしまう手術に関しては、バイ菌が入ってしまって赤く腫れているときには手術ができないので、抗生物質を飲んだり、一時的に穿刺して症状を抑えたりしてから、手術することが多いです。
そうは言っても、実際に手術が必要なのかどうか、いま手術ができる状況なのかどうかは、なかなか判断が難しいと思いますので、もし痛みがあったり、違和感が強い時には、一度診察にいらしてくださいね。
不思議な飲み物
私の祖母は京都に住んでいました。
私自身、京都の病院で里帰り出産だったのですが、家は滋賀県だったので、年末年始には京都にある祖父母の家に遊びに行っていました。
鴨川沿いにある中華料理屋さんで、お皿を乗せた台がクルクル回るのを初めて見て、大興奮したのを覚えています。それ以来、お正月といえばおせち料理より「クルクル回る中華料理」と言うイメージが付いてしまったくらいです。
また、別のお正月には、京都市内のホテルで親族一同が集まって、バイキングで正月を祝ったことも何度かありました。
いとこの中で私が1番小さかったので、毎年みんなに可愛がってもらい、とても楽しかった記憶があります。
そんな中で、おばあちゃんの思い出といえば、おばあちゃん家に行くと必ず出してもらえる、甘くて美味しい飲み物でした。
家では、あまりジュースとかは飲まなくて、基本的にご飯の時は水かお茶とだったので、この「おばあちゃん家の甘い飲み物」は本当に魅力的だったのを覚えています。
いつしか、お正月にしか飲めない特別な飲み物になっていて、毎年それが楽しみでおばあちゃん家に行ってました。
ところが、大学生になった頃、ふいにその「不思議な飲み物」の正体を知ることになりました。
大学に進んで一人暮らしを始めて、何気なくレストランで頼んだ飲み物が、まさしく「おばあちゃん家の甘い飲み物」だったのです。
それは
ミルクティー
でした。
・・・すいません、大したオチではなくて。
でも、個人的には大発見でした。
ミルクティーという名前だけは聞いたことがあったけど飲んだことのない飲み物が、まさかずっと気になっていた飲み物だったのですから。
それ以来、ミルクティーを飲む度に、おばあちゃん家の庭に面した椅子に座ってみんなで飲む光景が懐かしく思い浮かびます。
私にとって、おばあちゃんの思い出は、ミルクティーとクルクル回る中華料理なのです。
と思っていたら、その「中華料理屋さん」を取り上げているブログを発見しました。
http://kuchiki-kohjiro.hatenablog.com/entry/2017/07/02/050500
当時も今も変わらない、雰囲気のある建物です。お近くに行かれた際は、ぜひ一度行って見てくださいね。
がん家系かどうか気になりませんか
時々、「母に癌が見つかって」「祖母が癌で亡くなっていて」のように、近い家族に癌患者さんがいると、ご自身の癌を心配される方がいらっしゃいます。
そこで、今回は
がん家系
について説明したいと思います。
婦人科的に「がん家系」として以前話題になったのは、アンジェリーナジョリーさんが癌予防のために乳房を切除した、というニュースが流れた時でした。
乳がんと卵巣癌は密接に関係していることがあり、
遺伝性乳癌卵巣癌症候群
と言って、家系内に乳がんや卵巣癌などが好発し、遺伝子変異のある方は70歳までに卵巣癌になる確率が40%に上る、というものです。
そのため、ご家族に癌の方がどれだけいるか、というのは非常に重要な情報になってきます。
あまり離れた血縁の方の情報までは不要なのですが、少なくとも第1度近親者(兄弟姉妹、親、子)と第2度近親者(祖父母、おじ/おば、めい/おい)の情報は大切になってきます。
そして、次のような方々は、乳がんや卵巣癌になる遺伝子を持っている可能性が20~25%以上あり、遺伝学的リスク評価を考えてもいいかもしれません。
・過去に乳がんと卵巣癌になっている方
・卵巣がんになっていて、第1度/第2度近親者に卵巣癌か閉経前乳がんになった方がいる場合
・50歳以下で乳がんになった方
・第1度/第2度近親者に卵巣癌になった方がいる場合
こういった方々の遺伝学的リスク評価としては、血液検査でDNAを調べるのですが、保険が使えないので自費での検査になってきます。
費用に関しては、各病院で異なってくるため、以下のサイトでお近くの病院を探してみてください。
特に「卵巣癌」に関しては、よくある「婦人科がん検診」の対象にはなっていないことに注意してください。
というのも、卵巣癌自体を効果的に見つける検診方法というのがないのです。
「お腹が大きくなってきた」といって受診されたときには、もうすでに卵巣癌がかなり進んだ状態で・・・・という見つかり方をすることが多く、「毎年子宮がん検診を受けていたのに・・・」と言われることもあります。
卵巣癌は、早期発見が非常に難しい病気なのです。
ただ、遺伝子検査をして、遺伝子変異のあった方を対象に前もって卵巣・卵管を摘出した場合、卵巣がんと卵管がんのリスクが5分の1に減った、というデータがあります。
(Rebeck TR,Kauff ND,Domchek SM:Meta-analysis of risk reduction estimates associated with risk-reducing salpingo-oophorectomy in BRCA1 or BRCA2 mutation carriers. J Natl Cancer Inst 2009)
アメリカでは、遺伝子変異のある方は、前もって卵巣・卵管を摘出した方がいいと言われており、仮に手術をしない場合でも、ピルを6年以上飲むことで卵巣癌のリスクを4割減らせる、とされています。
(Whittemore AS, et al.: Oral contraceptive use and ovarian cancer risk among carriers of BRCA1 or BRCA2 mutations.)
卵巣・卵管を前って手術することは、妊娠・出産に関わることですし、更年期症状にも関わってきます。また、保険では認められない手術なので、自費で数十万円の金額がかかることにもなります。
ピルも確率は低いですが副作用があります。
どの方法を選ぶにしても、デメリットは伴いますので、家系的に自分が癌のリスクが高いかどうかをチェックするところから始めてみてくださいね。
子宮のポリープと言われたら
子宮がん検診や、おりもの検査で婦人科を受診した時に
子宮のポリープ
と言われることがあります。
子宮のポリープは、大きく分けて二つあって、ひとつは
子宮頚管ポリープ
というもの。そして、もうひとつは
子宮内膜ポリープ
というものになります。
ここでは、子宮頚管ポリープについてまとめたいと思います。
まず、基本的な方針としては、切除して顕微鏡で診る検査に回すことになります。
というのも、ポリープ自体は良性腫瘍であることがほとんどなのですが、ごくごく稀に悪性のもの、つまり癌が含まれることがあるため、見つけた場合には切り取って顕微鏡で詳しく診た方が安心、ということになります。
だいたいのポリープは茎の部分が細くて、ねじるだけで簡単に取れるので、特に麻酔もなく、外来で簡単に取れることが多いです。
ただ、茎の太いポリープだと、外来では簡単に取れないので、入院して手術が必要になることもあります。
次に、子宮内膜ポリープについてまとめます。
子宮内膜ポリープは、子宮の奥にあるポリープなので、超音波検査をして初めて見つかります。
そのため、いわゆる「子宮がん検診」では超音波検査をしないことが多いので、検診だけでは見つからないことがあります。
ただ、この内膜ポリープも上で説明した頚管ポリープと一緒で、ほとんどが良性なので、不正出血などの症状があったり、不妊症の原因になっている可能性があったり、悪性の可能性があったりすると手術して取ることになりますが、そうでなければ経過を診るだけになります。
内膜ポリープ自体は、1㎝以下であれば良性の可能性が極めて高いのですが、大きくなるにつれて癌の可能性も出てくるので、経過を診ることはとても大切です。
以上、ポリープについてまとめてみました。
がん検診で指摘されるポリープは、最初に説明した「子宮頚管ポリープ」であることがほとんどです。
また、婦人科医にとって「ポリープ」は本当によくある疾患なので、結構気軽に「ポリープがありますね」と言ったりします。
基本的には良性のものがほとんどなので、あまり気にする必要はないのですが、ポリープが見つかった以上は、やはり「精密検査」という方針になることが多いので、「まぁ、大丈夫だろう」と放置することがないように気を付けてくださいね。