中絶手術を減らすために
日本全国で年間18万件もの中絶手術が行われています。
中絶手術というのは、患者さん本人の精神的・肉体的ダメージはもちろんのこと、実際に中絶手術をする産婦人科医や、それに関わる看護師、医療スタッフ、みんなが精神的に傷ついてしまう手術です。
産婦人科医は、できることなら中絶手術はしたくないのです。
そこで、今回は中絶手術後の避妊方法について説明したいと思います。
中絶手術を受けた後、早ければ10日ほどで再び排卵すると言われています。
中絶手術の術後の経過観察で1か月後に来てもらった時には、すでに妊娠していた、という方を診たこともあります。
そのため、中絶手術を受けた後には、もう2度と繰り返さないために、何らかの方法を選ぶ必要があります。
ミレーナという子宮の中に小さい棒を入れる避妊方法がある、ということは以前説明しました。
ただ、どうしても体の中に何かを入れることに不安がある方は多いので、そういった場合にはピルを飲んでもらうことになります。
中絶手術をした直後からピルを飲むことも選択肢の一つにはなります。
1点気になるのは、血栓症という副作用の事だけです。
血栓症というのは、血管の中に血の塊ができて、ごくごく稀に命に関わることがあるのですが、ピルを飲むことで、血栓症になる確率がほんの少し上がってしまうのです。
また、妊娠することでも血栓症のリスクは上がりますし、「手術」そのものも血栓症のリスクにはなります。
つまり、中絶手術直後からピルを内服することは、「妊娠」「手術」「ピル」という血栓症のリスクが重なっていることになるのです。
そこで、中絶手術直後にピルを内服するかどうかは、その期間の妊娠する可能性と、血栓症のリスクを考えた上で、決めていくことになります。
手術に関しては、30分以上かかる手術だと、特に手術前4週間と術後2週間はピルを内服してはいけないとされています。また、妊娠に関しては、妊娠後期から産後にかけて、より血栓症のリスクが高くなります。
そう考えると、ほとんどの中絶手術は30分以上かからないですし、妊娠に関してもごく初期ですので、それほど血栓リスクは高くないだろうと言えます。
そのため、「妊娠する可能性」が高いのであれば、中絶手術直後からピルを飲むことは選択肢の一つになると言えます。
しっかり主治医の先生と相談してみてくださいね。
ミレーナという避妊方法
妊娠したものの、様々な理由で中絶を選ぶ方がいるのですが、精神的にも肉体的にも同じことは繰り返したくないですよね。
コンドームはどうしても男性主体の避妊であり、女性主体で避妊するためには、ピルやミレーナを使ってもらうことになります。
生理痛に対する治療法としてミレーナがある、ということは以前説明したのですが、避妊にも十分効果を発揮します。
パール指数といって、1年間に避妊に失敗する確率を現した数字があるのですが、
ミレーナだと、パール指数は0.2
ピルだと、しっかり内服出来て0.3ですが、飲み忘れることもあるので、一般的には、9.0ほどになると言われています。
ミレーナであれば、一度子宮の中に入れてしまえば、あとはもう何もすることがないので、ピルのように飲み忘れを心配する必要もありません。
また、ピルだと血栓症という副作用がありますが、ミレーナではそれがありません。
ただ、ミレーナを避妊目的で使うためには、保険が使えず、自費で使ってもらうことになります。
当院でミレーナを自費で入れる場合には6万円かかります。5年間は入れっぱなしで大丈夫なので、ちょうど月々1000円の負担という形です。
もちろん、妊娠の希望が出てきた時点でミレーナを抜いてしまえば大丈夫なので、将来的な妊娠に対する影響は考えなくても大丈夫です。
ミレーナを挿入するタイミングとしては、生理の終わり際になりますので、最初からミレーナを挿入するつもりであれば、生理終わり際に受診してくださいね。
一度話を聞いてみたい、という方であれば、どのタイミングで受診してもらっても大丈夫です。
ピルを飲むと妊娠しにくくなる?
生理と整えたい、避妊をしたい、などの理由でピルを希望される患者さんは多いのですが、よく質問されるのは
ピルを飲んで、将来の妊娠は大丈夫なのか
ということです。
結論から言うと、長期間ピルを服用しても、将来の妊娠には
影響しません。
実際に、ピルを内服している6万人を対象にした論文があるのですが、妊娠希望があってピルを中止した人のうち、1年後に8割、2年後に9割の人が妊娠した、という結果になりました。
ピルを服用していた期間で比較してみても、2年未満の服用者では、1年後の妊娠率が81%だったのに対し、2年以上服用していた人では、1年後の妊娠率が79%という結果でした。
このことから、ピルを服用している期間によって、妊娠率に差は出ない、と言われています。
これは様々なピルの種類によっても、同じような結果になっています。
また、ピルではなくディナゲストという薬でも同様に、中止1年後の妊娠率が9割と言われています。
以上のことから、生理痛に悩んでいる方、生理を整えたい方、しっかりと避妊したい方は、将来的な妊娠に関する心配はせずにピルやディナゲストを使ってもらえれば、と思います。
生理の前の調子の悪さ、どうしてますか?
女性の半数以上が、生理前に調子が悪くなる、と言われています。
お聞きになったことがある方もいると思いますが、病名で言えば、
と言います。
このPMS、軽いものでは特に医学的な治療が必要ないのですが、やはり症状が重くなると何らかの薬が必要になり、症状が重くなってくると、PMSではなく、
月経前不快気分障害
という病名に変わってくるのです。
PMS、PMDDでは、生理前に調子が悪くなり、生理が来ると症状が軽くなるのが特徴ですが、治療法としては漢方であったり、ピルを使うことが多いのです。
ただ、ピルに関しては保険で使えるお薬がありません。
ヤーズという薬が、PMDDに効くと言われており、アメリカでは保険適応になっているのですが、日本ではヤーズは生理痛に対してしか保険が効かないのです。
そのため、ヤーズをPMS、PMDDに使おうとすると、自費で月7000円近くしてしまいます。
実際には、ヤーズ以外のピルを飲んでみてもらうと、PMSやPMDDに効くことも多いので、そちらで経過を診ることが多いです。
当院では、ヤーズ以外のピルが月3000円ですので、月7000円近くするヤーズに比べれば、だいぶ安いですよね。
もちろん、PMSやPMDDに加えて、生理痛で悩んでいる方は、ヤーズを保険で使えますので、月々2000円ちょっとの負担になります。
その他の治療法として漢方薬もありますので、生理前の調子の悪さで悩んでいる方は、一度ご相談ください。
内診検査は絶対必要なのか
婦人科を受診する上で最もハードルを高くしているのは、やはり
内診
という検査の存在だと思います。
性交経験のある方でも抵抗があると思いますが、性交経験のない方であれば、内診はとても痛くて出来ないですし、内診台というものに対する抵抗もあって、婦人科受診そのものを遠ざけていると思います。
そこで、私のクリニックの問診票には
「内診をどうしても受けたくない」
というチェック項目を作りました。
そこにチェックしていただけば、内診検査は行いません。もちろん、症状次第ではどうしても必要になってしまうことはあります、、、
例えば、お腹の痛みが激しい時には、卵巣が腫れて捻れている可能性があり、緊急手術が必要になります。その診断を早くつけるためには超音波検査が必要なので、腟からの検査、もしくは直腸からの検査が必要になります。
また、性交経験のある方だと、異所性妊娠(子宮外妊娠)や卵巣出血の可能性もあり、内診検査の必要性が出てきます。
ただ、それほど痛みが強くなかったり、普段の生理痛は重いけど、診察時には痛みがない、という時には、内診検査が絶対必要、という訳ではありません。
子宮筋腫や卵巣の腫れに関しては超音波検査ではなく、MRIという検査で調べることもできます。
超音波検査だと1500円ほどで済むのですが、MRIだと、大きな病院に後日受診してもらって、検査料だけで5000円近くするというデメリットはあるので、どちらかを選んでもらう形になります。
どうしても内診検査に抵抗のある方は、ご相談いただければ、と思います。
例えば、生理前に調子が悪くなる
では、内診の検査は不要で、漢方やピルを飲むことで改善することが多いので、相談に来てくださいね。