平和島レディースクリニック

診察室では説明しきれないことを中心に

長時間労働と自殺について

電通長時間労働が原因と思われる自殺をした女性のことが話題になっています。


過酷な労働環境だった、とのこと。


ツイッターでの追い込まれている様子も読み取れて、心が痛みます。



そういう時に必ず出てくるのが、

自分はもっと頑張ってる

若いころはもっと頑張ったものだ


という苦労自慢。


でも、単純に労働時間の長さだけでは測れない部分があると思うのです。



例えば、ゲームをするだけでお金がもらえる職業があれば、ゲーム好きな人は寝る間も惜しんでゲームをするでしょう。


もし、読書をするだけでお金を稼げるのであれば、読書好きな人は一日中読書をしているでしょう。



つまり、仕事の時間の長さだけではなく、その仕事内容がどれだけ精神的にきついか、ということが大事なんだと思うのです。



そう考えると、単純に

自分の方が長時間働いている


なんて自慢は何の意味もないことがわかります。



また、自殺するくらいなら仕事を辞めればよかったのに、という言葉も聞きます。


これもまた本人にとっては意味のない言葉です。




私も仕事の関係で、かなり精神的に参ったことがあります。


振り返ってみれば、仕事を辞めれば済んだ話です。


でも、当時の私には「仕事を辞める」なんて選択肢は思い浮かばないのです。



頭の中が、その悩みでいっぱいになるのです。


幸い、当時は仕事以外に集中できる趣味があったので、気分転換ができました。


そのおかげで、自殺という選択肢は頭には浮かびませんでした。


でも、もしその趣味がなかったら、と思うと・・・



人間の頭の中って本当に難しいです。


とても複雑なことが考えられるように見えて、実は単純で、ちょっとしたことで壊れてしまいます。



自分一人でそれを解決するのは、とても難しい



周りの助けが必要なんです



人は一人では生きていけいない、というのは深い言葉だなと思います。



どうか、このブログを読んでいる方の中で、頭の中が何かで一杯になって苦しんでいる方がいましたら、少しでもどこかに吐き出してください。


それをどこかの誰かが受け止めてくれるかもしれません。


それだけで、頭の中に少しでも隙間がうまれれば、また何かが変わりますから・・・

矢部美穂さんの子宮筋腫の手術予定について

 

 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161020-00000005-dal-ent

 

矢部のブログによると、大きい筋腫は6センチ。小さい筋腫も8~10個ある。

 腹腔鏡手術を行うため大きい筋腫を縮める注射を半年続けてきたが2センチしか縮まらず、全開腹手術になるという。

 

とのこと。

 

6センチの筋腫や、それ以下の小さい筋腫を取るために開腹しなくても、、、と思ってしまいました。

 

 

大きさ的には、それほど大きくないので、内視鏡手術で十分取れると思います。

 

おそらく、小さい筋腫がたくさんあって、それを全部取りきるには内視鏡より開腹で、という方針になったのでしょう。

 

子宮筋腫は見た目でわからないくらい小さいものも、直接手で触ることで見つけることができるので、小さい筋腫がたくさんある場合には、開腹手術のほうが選ばれることもあります。

 

ただ、開腹手術で取りきったと思っても、また再発することがあるのが筋腫の厄介なところ。

 

そう考えると、開腹して全てを取りきることに執着する意味があるのか、微妙になってきます。

 

もちろん、ご本人ができるだけ全部取り切りたいって強く思っていれば、開腹手術も選択肢にはなりますが。

 

内視鏡手術だとモニターに映される映像越しでしか、筋腫の存在を確認できないので、本当に小さいものは残してしまうことになるので、本人が今回の手術でどこまで取り切りたいと思うか次第でしょうね。

 

ちなみに、内視鏡手術だと傷は1-2センチの大きさのものが4箇所くらいで済みますので、開腹手術より術後の痛みは楽でしょう。

 

それだけ小さい傷から子宮筋腫を取り出す工夫も、いろいろ考えられているので、内視鏡手術を諦めなくてもいいのになぁと思いました。

 

最終的には主治医の先生とご本人が納得していればいいんですが、、、

 

ピルを簡単に処方されていませんか


外来をしていると、本当によく言われます。

「前の病院では全然説明してくれなかった」と


私も外来が忙しいのは理解しています。クリニックで、5分に一人は患者さんを診ないといけない外来をすることもあります。

でも、薬を処方する以上は、ちゃんと説明しないとダメですよね。


ずっとピルを飲んでいる人であれば、1分もかからずに診察が終わります。

でも、短く終わった診察の分は、初めてピルを飲む人に説明する時間に使わないとダメ。




別の病院でピルを処方されている人に血栓症の副作用を説明をすると、初めて聞きました、と言われることも。


一体、ピルを処方している医者は何を説明しているのでしょうか。


「ピルください」
「はいどうぞ」

で終わらせているのでは?


そういう医者は、ピルなんて稼ぎの種としか思っていないのでしょう。

そして、血栓症となった患者さんを診たことがないのでしょう。


産婦人科医として「まともな」働き方をしていれば、血栓症の患者さんを診たことはあるはず

そして、患者さんがどれだけ大変になるかもわかっているはず。



だとしたら、必然的に血栓症に関しては説明するはずなんです。

もし、あなたがピルを処方されているクリニックで血栓症の副作用を聞いたこともなければ、クリニックを変えることをお勧めします。



なぜ、今回このようなキツイ言い方をしているかというと・・・


下腹部痛で外来に来た28歳の患者さんがいました。

問診票をチェックしてみると、過去の病気の欄に「脳梗塞」と書いてありました。

この年齢にして、脳梗塞になったことがあるって珍しいな、と。

そこで、よくよく確認すると、ピルを飲んでいる、とのこと。

そして今も!!!


すぐに飲むのを止めてください!と言いました。

脳梗塞のように血栓症になったことがある人は、ピルは絶対飲んじゃダメなんです。

でも続けて処方されていた・・・

きっと、副作用のこともろくに知らずに、お金の為だけにピルを処方している開業医なんでしょう。


本当に腹が立ちました。



たまに聞くんです。

婦人科って受診するのがハードル高いから、内科でもピル処方できたほうがいいよねって。

言いたいことはわかります。でも、処方するなら責任をもって処方してください。

患者に必要な情報を伝えることができないなら、その薬を処方する資格はないと思います。



血栓症なんて何千人とか何万人に一人に確率です。

滅多におきません。


でも、その滅多におきないことを考えるのがプロとしての仕事です。


滅多にないから気にしなくてもいい、なんて言っていいのは素人だけです。

ピルってどんな種類があるの?

生理痛の為にピルを飲んだり、避妊目的でピルを飲んだり、目的は様々だと思いますが、それぞれのピルにはどのような特徴があるのかまとめてみました。



保険適応で飲めるピルとしては、

ルナベルLD
ルナベルULD
ヤーズ

避妊目的など、自費でピルを飲む場合は

トリキュラー
マーベロン

などが挙げられます。

ルナベル

ルナベルLDとは、もともと「ルナベル」という名前で処方されていたピルです。

そのルナベルLDから、ホルモン量を変えたものが2013年から発売され、新しく発売されたものが、ルナベルULDというものです。

新しく発売されたものが、ULDという名前になったため、自動的に元からあったルナベルがルナベルLDという名前に変わりました。


大きな違いは副作用です。

ULDになることで、嘔気の副作用が軽減された代わりに、不正出血の確率は上がりました。

ですので、嘔気を軽く済ませたいならULD、不正出血を少なくしたいならLDを選ぶことになります。

また、確実なデータは出ていませんが、ULDの方がホルモン量が少ないため、理論上はULDのほうが血栓症という副作用は起きにくいと考えられています。

ヤーズ

そもそもピルというのは、EとPという2種類のホルモン剤を合わせて作られています。

そして、Pには様々な種類があるのですが、どれもわずかながら男性ホルモンのような作用を持っているのです。

ただし、このヤーズは、男性ホルモン作用を抑える働きを持っています。

男性ホルモンを抑えるということは、ニキビを抑える効果につながります。

実際に海外では、ニキビに対する治療薬としてヤーズが認められています。

そのため、ルナベルで肌荒れがひどくなった、という方はヤーズを試してみましょう。

トリキュラー

こちらは、1シートに含まれる錠剤の中で、ホルモン量が段階的に変化し、より自然な形に近づけようとしているため、不正出血が比較的少ないと言われています。

マーベロン

こちらは、1シートに含まれる錠剤がすべて同じホルモン量となっています。そのため、やや不正出血が多くなりますが、男性ホルモン作用が低いため、ニキビができにくいメリットがあります。


肌荒れ、という点ではルナベルよりヤーズに軍配が上がりましたが、同様にトリキュラーよりマーベロンの方が肌荒れにはいいでしょう。


副作用に関しては、上記のような違いがありますので、ピルの種類を選ぶ際に参考にしてみてください。


なお、保険で飲めるルナベル・ヤーズと、自費で飲むトリキュラーマーベロン、単純に毎月の負担が違うだけではありません。


保険が使える、ということは、万が一、その薬で副作用が出たときに、その治療に要したお金はすべて国が払ってくれる、ということなのです。

滅多に副作用は出ませんが、重い副作用が出たときのことを考えると、保険で飲めるのであれば、保険適応のピルを飲んでおきたいですね。

避妊目的でのピルは保険適応になりませんが、生理痛で悩んでいる方は保険適応で処方できますので、受診して相談してくださいね。


ちなみに、ルナベルLDにはフリウェルというジェネリックが発売されました。

金額的には、1ヶ月で1000円ほど安くなりますので、ルナベルLDで調子がいい方は、フリウェルに変えてみてもいいと思います。

低用量ピルを飲んで血栓症になるリスクについて

低用量ピルに関する論文を見つけたので、今日はその論文について解説したいと思います。


低用量ピルによる肺塞栓、脳卒中心筋梗塞のリスク 500万人のフランス人女性に対する研究

Low dose oestrogen combined oral contraception and risk of pulmonary embolism, stroke, and myocardial infarction in five million French women: cohort study

2010年7月~2012年9月において、ピルを服用した15歳~49歳の女性500万人を対象に調査した論文です。

論文の対象となった人


対象となる女性は、癌にかかったことがある人や、肺塞栓・心筋梗塞脳卒中にかかったことのある人、慢性疾患にかかっている人は除かれています。

ピルを服用している544万3916人のうち、3253人に血栓症の副作用がありました。内訳は、肺塞栓が1800人(10万人中33人)、脳卒中が1046人(10万人中19人)、心筋梗塞が407人(10万人中7人)でした。

確率で言うと、0.06%と非常に低い確率で血栓症が起きています。

ピルの種類について


低用量ピルというのは、簡単に言うとEとPという二種類のホルモン剤を混ぜ合わせた薬なのですが、EとPの種類や用量によって、リスク分類をした結果・・・

Eは全て同じ種類で、20μgという量と、30-40μgという量で比較しています。

Pは用量での比較ではなく、種類の違いで比較しています。

デソゲストレル、ゲストーゲン、レボノルゲストレルという三種類のPについて比較しました。

まずは、同じPを使っている場合

Eが30-40μgに比べて、20μgしか使っていない場合は、肺塞栓は0.75倍、脳卒中が0.82倍、心筋梗塞が0.56倍と、Eが少ない方が血栓症の副作用は低いことがわかりました。



次に、Eの量が同じ場合

デソゲストレルとゲストーゲンはレボノルゲストレルと比べて肺塞栓は1.5~2倍になりました。

レボノルゲストレルに限定すると、Eの量が30-40μgより20μgの方が、明らかにリスクが低くなりました。


結局どういうこと?


同じ量のEを使っている場合、デソゲストレルやゲストーゲンより、レボノルゲストレルの方が、肺塞栓の確率は低い結果となりました(脳卒中心筋梗塞は変わらず)

日本で発売されている薬ではどうなの?

メジャーな薬として、ルナベル、ヤーズ、トリキュラーマーベロンを検証します。

ルナベルにはLDとULDがあり、LDはE:35μg ULDはE:20μg と、Eの量が変わっています。Pは、ノルエチステロンという種類です。

上の論文でも記載してあるように、Pの種類が同じなのであれば、Eは少ない方が血栓症の確率は低いはずなので、ULDの方が血栓症のリスクは低いだろうと思われます。

ヤーズは、E:20μgと低用量ですが、Pの種類がドロスピレノンと言って、上の論文では検証されていません。

トリキュラーは、E:30μgと、Pはノボノルゲストレル
マーベロンは、E:30μgと、Pはデソゲストレルになっています。

具体的に血栓症のリスクを比べてみた


トリキュラーで肺塞栓、脳卒中心筋梗塞が起こる確率を1とした場合、

ルナベルLDでは、肺塞栓:0.56 脳卒中:0.85、心筋梗塞:0.97
マーベロンは、肺塞栓:2.18 脳卒中:0.80 心筋梗塞:0・75

となっています。

数字だけ見ると、ルナベルLDが一番血栓症の確率は低そうです。

また、Eは少ない方が血栓症の確率は下がると思われるため、ルナベルLDよりULDの方がリスクは低いと言えそうです。


これらの血栓症の確率は、1万人に2人とか3人のレベルでのお話しですので、そこまで劇的に変わるものではありませんが、血栓症以外の副作用が特に変わらないのであれば、より血栓症のリスクが低い薬を選びたいですね。