平和島レディースクリニック

診察室では説明しきれないことを中心に

子宮内膜症で手術が大変だった話

以前、子宮内膜症で癒着が大変だったために、人工肛門を作ることになったブログを書きました。

 

 

今回は、腸ではなく尿管に癒着があって大変だった話をしたいと思います。

 

 

その患者さんは、もともと生理痛が酷かったのですが、腰の痛みが急に強くなった、ということで受診されました。

 

診察してみると、子宮や卵巣は全く腫れていません。腰の痛みも背中の真ん中あたりで、どうも婦人科とは関係なさそうな雰囲気です。

 

そこで、内科の先生に相談したところ、CTの結果で腎臓が腫れていることがわかりました。

 

そこから泌尿器科の先生に紹介となり、詳しく調べてもらったところ、どうやら腎臓から膀胱に向かう「尿管」という管の流れが悪いようなのです。

 

なぜ尿管の流れが悪いのか、泌尿器科の先生達と話し合った結果、生理痛の酷さもあるので、内膜症による尿管の癒着ではないか、という結論になりました。

 

ただ、尿管の手術となると、婦人科医だけでは手が足りないので、まずは婦人科で手術をして、必要に応じて泌尿器科の先生にも手術に入ってもらう方針となりました。

 

 

実際にお腹を開けてみると、子宮や卵巣周囲の癒着はそれほど大したことはありません。

 

しかし、尿管の周りに向かうにつれて、周りの組織がとても硬くなり、明らかに「癒着」が強くなり始めました。

 

「尿管」と書くと、明らかな「管」なので、すぐに見つけられるだろうと思われるかも知れませんが、周りの組織と癒着してしまって、見分けがほとんど付きません。

 

いつもは触った感触で見分けるのですが、やはり「癒着」により周りの組織ごとカチカチになっているため、触っただけでは、どこに尿管があるかもわかりません。

 

そこで少しずつ、本当に少しずつ癒着している組織を落としていき、尿管を掘り始めました。

 

1時間以上、癒着を剥がすのに時間がかかりました。ほんの数センチの癒着を剥がすのに、これだけ時間がかかったので、かなり大変な手術でした。

 

やっと尿管を解放できた、と思い、念のため反対側の尿管も確認しようとしたところ、術前の検査では何の問題もなかったのに、こちらもまた癒着が激しいのです、、、

 

しかし、こちらの尿管に関しては流れは悪くなっていません。

 

流れが悪くないのに尿管を解放する必要はないだろう、ということで、こちらの尿管はそのままにして、お腹を閉じました。

 

術後は内膜症予防のためのホルモン剤を飲んでもらい、予防につとめたのですが、、、

 

数ヶ月後、再び患者さんが腰痛を訴えて来院。検査してみると、解放したはずの尿管がまた詰まっていました、、、、

 

 

そこで再手術となったのですが、剥がした尿管の周りが再び癒着していたのです。それほど長い期間かけて出来上がった「癒着」ではなかったので、前回よりはスムーズに癒着を剥がすことができ、順調に手術は終わりました。

 

 

その後は、特に腰痛が出現することなく、順調に経過しましたが、内膜症の手術は本当に大変!というお話でした。

 

 

生理痛の重い方がみんなそうなる訳ではありませんが、本当に大変になると手術がとても難しくなって、患者さん自身の負担がとても大きくなってしまう、ということはわかって頂きたいと思います。

 

生理痛が重くて困っている方、ぜひ一度婦人科で相談してみて下さいね。

 

不妊症かな、と思ったら

一般的に

避妊せずに1年経っても妊娠しないこと

が不妊症の定義とされています。



とは言え、「1年も待っていられない」「一刻も早く妊娠したい」という方もおられると思います。


そこで、「不妊症か否か」という定義は置いておいて、ある程度簡単に「妊娠できるのかな」という気持ちに答えられる検査を説明したいと思います。


まず一番簡単に調べられるのが


基礎体温

です。

病院を受診しなくても、「基礎体温計」を購入して、体温表をつけるだけで、しっかり排卵できているのかどうかを調べることができます。

最近では、体温を測るだけで勝手にアプリに体温表を付けてくれる優れものもあるので、今までつけたことがない方は、一度試してみてはどうでしょうか。

ただ、毎日計測するのが結構大変だったりします。そこは、ある程度アバウトでも大丈夫です。1日計測し忘れたところで、大した問題ではありません。

最終的に体温のグラフを遠目に見たときに、低温の部分と高温の部分が分かれているようであれば、まず問題なく排卵していると思って大丈夫でしょう。

いつまで経っても、同じような体温でグラフが推移していて、低温なのか高温なのか、はっきりしない場合は、うまく排卵できていない可能性があります。


そういった時は、ホルモン採血をしてみる必要があるのですが、生理3日目~7日目くらいに採血する必要があるので、うまくタイミングが合えば受診してみてください。

もし、何カ月も生理が来ない、という方であれば、そこまで生理中のタイミングにこだわる必要はないので、都合のいいタイミングで受診してくださいね。


あとは、クラミジアの検査も早めに受けてほしいと思います。


クラミジアは、本当に知らない間に感染していることが多いです。そして、放置していると不妊症の原因にもなってしまい、クラミジア自体がお腹の中に広がって、「癒着」を起こしてしまうと、その「癒着」は飲み薬では治すことができません。


癒着とは、もともとくっついていない、子宮や卵巣、卵管、腸がベタベタくっついてしまうことです。それが原因で、不妊症になってしまったり、排便時の痛みが出たり、性交痛がでたりします。

この「癒着」は、クラミジアだけでなく、子宮内膜症が酷くなった場合でも起きてしまうもので、いずれも飲み薬だけだと治療が難しく、超音波での診断も難しいため、非常に厄介な状況と言えます。


そのため、できるだけ早く原因を見つけて、ひどい「癒着」に進むのを防止することが大事になってきます。


あとは、精液検査です。


統計上、不妊症の原因の半分には、男性側の原因があるのです。そのため、精液検査はかなり早い段階で調べておいた方がいい検査です。


女性が婦人科を受診して、いろいろ検査を受けなければならないことを考えると、男性は精液検査を受ければいいだけなので、比較的ハードルが低い検査かと思います。

ぜひ、相手の方としっかり相談して、ひとつひとつ検査を進めてみてくださいね。

中絶手術を減らすために

日本全国で年間18万件もの中絶手術が行われています。


中絶手術というのは、患者さん本人の精神的・肉体的ダメージはもちろんのこと、実際に中絶手術をする産婦人科医や、それに関わる看護師、医療スタッフ、みんなが精神的に傷ついてしまう手術です。


産婦人科医は、できることなら中絶手術はしたくないのです。


そこで、今回は中絶手術後の避妊方法について説明したいと思います。



中絶手術を受けた後、早ければ10日ほどで再び排卵すると言われています。


中絶手術の術後の経過観察で1か月後に来てもらった時には、すでに妊娠していた、という方を診たこともあります。


そのため、中絶手術を受けた後には、もう2度と繰り返さないために、何らかの方法を選ぶ必要があります。


ミレーナという子宮の中に小さい棒を入れる避妊方法がある、ということは以前説明しました。


ただ、どうしても体の中に何かを入れることに不安がある方は多いので、そういった場合にはピルを飲んでもらうことになります。


中絶手術をした直後からピルを飲むことも選択肢の一つにはなります。


1点気になるのは、血栓症という副作用の事だけです。



血栓症というのは、血管の中に血の塊ができて、ごくごく稀に命に関わることがあるのですが、ピルを飲むことで、血栓症になる確率がほんの少し上がってしまうのです。

また、妊娠することでも血栓症のリスクは上がりますし、「手術」そのものも血栓症のリスクにはなります。


つまり、中絶手術直後からピルを内服することは、「妊娠」「手術」「ピル」という血栓症のリスクが重なっていることになるのです。



そこで、中絶手術直後にピルを内服するかどうかは、その期間の妊娠する可能性と、血栓症のリスクを考えた上で、決めていくことになります。




手術に関しては、30分以上かかる手術だと、特に手術前4週間と術後2週間はピルを内服してはいけないとされています。また、妊娠に関しては、妊娠後期から産後にかけて、より血栓症のリスクが高くなります。

そう考えると、ほとんどの中絶手術は30分以上かからないですし、妊娠に関してもごく初期ですので、それほど血栓リスクは高くないだろうと言えます。


そのため、「妊娠する可能性」が高いのであれば、中絶手術直後からピルを飲むことは選択肢の一つになると言えます。

しっかり主治医の先生と相談してみてくださいね。

ミレーナという避妊方法

妊娠したものの、様々な理由で中絶を選ぶ方がいるのですが、精神的にも肉体的にも同じことは繰り返したくないですよね。


コンドームはどうしても男性主体の避妊であり、女性主体で避妊するためには、ピルやミレーナを使ってもらうことになります。



生理痛に対する治療法としてミレーナがある、ということは以前説明したのですが、避妊にも十分効果を発揮します。


パール指数といって、1年間に避妊に失敗する確率を現した数字があるのですが、


ミレーナだと、パール指数は0.2

ピルだと、しっかり内服出来て0.3ですが、飲み忘れることもあるので、一般的には、9.0ほどになると言われています。


ミレーナであれば、一度子宮の中に入れてしまえば、あとはもう何もすることがないので、ピルのように飲み忘れを心配する必要もありません。

また、ピルだと血栓症という副作用がありますが、ミレーナではそれがありません。



ただ、ミレーナを避妊目的で使うためには、保険が使えず、自費で使ってもらうことになります。


当院でミレーナを自費で入れる場合には6万円かかります。5年間は入れっぱなしで大丈夫なので、ちょうど月々1000円の負担という形です。



もちろん、妊娠の希望が出てきた時点でミレーナを抜いてしまえば大丈夫なので、将来的な妊娠に対する影響は考えなくても大丈夫です。


ミレーナを挿入するタイミングとしては、生理の終わり際になりますので、最初からミレーナを挿入するつもりであれば、生理終わり際に受診してくださいね。

一度話を聞いてみたい、という方であれば、どのタイミングで受診してもらっても大丈夫です。

ピルを飲むと妊娠しにくくなる?

生理と整えたい、避妊をしたい、などの理由でピルを希望される患者さんは多いのですが、よく質問されるのは


ピルを飲んで、将来の妊娠は大丈夫なのか


ということです。


結論から言うと、長期間ピルを服用しても、将来の妊娠には


影響しません。



実際に、ピルを内服している6万人を対象にした論文があるのですが、妊娠希望があってピルを中止した人のうち、1年後に8割、2年後に9割の人が妊娠した、という結果になりました。

ピルを服用していた期間で比較してみても、2年未満の服用者では、1年後の妊娠率が81%だったのに対し、2年以上服用していた人では、1年後の妊娠率が79%という結果でした。

このことから、ピルを服用している期間によって、妊娠率に差は出ない、と言われています。


これは様々なピルの種類によっても、同じような結果になっています。


また、ピルではなくディナゲストという薬でも同様に、中止1年後の妊娠率が9割と言われています。


以上のことから、生理痛に悩んでいる方、生理を整えたい方、しっかりと避妊したい方は、将来的な妊娠に関する心配はせずにピルやディナゲストを使ってもらえれば、と思います。