中絶手術について思うこと
時々、医師ではない方と話して驚かれることがあるのですが、我々医師と言うのは、医学部時代に全ての科を勉強し、卒業する時点で、何でも好きな科を選んでいいことになっています。
厳密には、医学部を卒業した後の2年間は全ての科を学ぶ期間であり、それが終わった時点で、自分が学びたい科を選ぶことになります。
そのため、医学部に入りさえすれば、何科の医師にでもなれるのです。
そして、何科を選んだとしても、途中で違う科に変わるのも自由となっているので、私自身が
「明日から脳神経外科医になる!」
と宣言すれば、私は脳神経外科医になるのです。
もちろん、知識や技術が伴わなければ、何の役にも立たないのですが、その医師が何科の医師であるかは、自己申告みたいなものなのです。
もちろん、その科の
専門医
であれば、何年も診察しないとなれないのですが。
では、私が卒業した時点で、なぜ産婦人科を選んだか。
それは、やはり妊婦さんはもとより、生まれてくる赤ちゃんの命を救える科だったからです。
おめでとうございます
と言える唯一の科だとは良く言いますが、その魅力はとても大きいのです。
そんな仕事の中で、どうしても避けて通れない、ツライ仕事が
中絶手術
になります。
もちろん、母体の健康を損なう病気があったり、いろいろな事情があって、諦めることになるのですが、避妊をしっかりしていなかった、妊娠するとは思っていなかった、などの不注意による中絶がとても多いのが現状です。
それでも、中絶希望の方が来られると、こちらとしてはその手術をするしか選択肢はないと思っています。
中絶の相談に来られた患者さんの中には、私の対応がとても淡白だと思われる方もいるかもしれません。
しかし、実際に産んで、その先に何年も続く育児に私は1mmも関与することができないのです。
もちろん、産んでほしい気持ちはヤマヤマです。妊婦健診で、赤ちゃんが元気に動いているのを診るのは、本当に楽しい瞬間です。
でも、時折ニュースで虐待事件を見て心を痛めていると、本当に産むことだけが幸せなのかと、考えさせられるのです。
医学的に出産のリスクを考えている方であれば、持ちうる知識と経験をお伝えします。
その上で出産するかどうか決めてもらいたいと思います。
ただ、経済的理由であったり、父親となるであろう相手の問題であったり、プライベートな部分ばかりは関わることができません。
そこは、決断された方の意思を尊重するしかないんだと思っています。
中絶が無くなることはないと思います。
少しでも中絶が減ることが理想ではありますし、何より生まれてくる赤ちゃんが幸せな人生を送ってもらうことが、産婦人科医としての願いでもあります。
中絶を希望してこられる患者さんに対して、こちらも複雑な想いを抱いている、という話でした。