平和島レディースクリニック

診察室では説明しきれないことを中心に

胎児エコーの勉強会に出て

先日、豊洲で開かれた胎児エコーの勉強会に出席してきました。


もともと、妊婦健診で胎児を診るのが大好きなので、産婦人科医になってからも、多くの勉強会に出てきました。飛行機に乗って大分まで勉強会に行ったこともあるのですが、やはり「自分から進んでする勉強」というのは楽しいですね。


今回、豊洲の胎児エコー勉強会で学んだことは、妊娠中の胎児スクリーニングの中でも先天性心疾患という赤ちゃんの心臓の異常を見つけましょうというものです。

超音波で赤ちゃんの体を詳しくチェックして、異常がないか確認することを「スクリーニング」と呼んでいます。


妊婦健診というのは、お母さんの体調管理に加えて、赤ちゃんに何か大きな異常がないかを見つけるのがとても大切なのですが、赤ちゃんの心臓に何か大きな異常があった場合、生まれてすぐに対応する必要が出てくるので、場合によっては出産する病院が限られてくる可能性があるのです。


そのため、妊婦健診において「スクリーニング」というのは非常に大切な診察となります。



まず最初に、心臓の構造について少し詳しく説明したいと思います。

心臓というのは、簡単に言うと4つのお部屋に分かれていて、それぞれの部屋に重要な血管がつながっているのですが、その重要な血管に異常が出ることがあり、それを出来るだけ妊娠中に見つけて、出産後の処置にスムーズにつなげる必要があります。


心臓から血液を送り出す部屋を「心室」と言い、左右に1つずつあるので、それぞれを「左心室」「右心室」と呼びます。

「左心室」は全身に血液を送り出す役割をしていて、「左心室」→「大動脈」→「全身」と血液が流れることになります。

「右心室」は肺に血液を送り出す役割をしていて、「右心室」→「肺動脈」→「肺」と血液が流れることになります。


ここで出てきた「大動脈」と「肺動脈」は心臓から出てきて交差するのですが、まれに「大動脈」と「肺動脈」が入れ替わってしまっていて、「心臓」から出てきた太い血管が交差しないことがあります。

この病気を「大血管転位症」と呼びます。100人の赤ちゃんのうち1人の確率で心臓に異常があるのですが、その中の数%が「大血管転位症」という状態になります。もしこれがあると赤ちゃんが産まれた後に苦しくなってしまうので、手術で治す必要が出てきます。


大血管転位症 — 日本小児外科学会



実は、私自身、この病気を妊婦健診で一度だけ見つけたことがあります。

まだ産婦人科専門医になる前の「後期研修医」という立場だったのですが、その頃から胎児エコーには興味があり、勉強会には何度か出席していました。

その勉強の中で、ぜひ見つけないといけないの病気の一つとして、この「大血管転位症」が挙げられていたのです。


さきほど説明したように心臓から出てくる太い血管は交差するので、エコーで血管の交差を確認できれば大丈夫。

全ての妊婦さんに「太い血管の交差があるか」チェックしていました。

本来であれば、スクリーニングの週数が決まっているので、その週数だけスクリーニングすればいいのですが、当時はより多くの赤ちゃんの心臓を診て勉強したかったので、担当した妊婦検診では、全ての週数でスクリーニングをしていたのです。


そして、「大血管転位症」を見つけた妊婦さんは、妊娠後期になって私が初めて診る方でした。

(当時勤めていた病院では、曜日ごとに担当医が決まっていて、妊婦さんはいつでも好きな曜日を選べるシステムだったので、全ての妊婦健診を担当することもあれば、1回しか妊婦健診を担当しない妊婦さんもいたりしました。)


妊娠35週と分娩も近くなっていて、他の先生がスクリーニングしているから大丈夫だろうとは思いつつ、心臓のチェックをしていたのですが、いつもは交差している太い血管がどれだけ診ても交差しません。。。

ずっと並行のまま、伸びていくのです・・・


初めて診た状態だったので、全く自信が持てず、自分の見間違いじゃないかと思い、他の先生も呼んで診てもらったのですが、やはり「大血管転位症」だろうという結果になりました。

その病院では、大血管転位症の赤ちゃんを診ることができないので、そのまま大きな病院に転院してもらって、そちらで出産してもらうことになりました。

赤ちゃんやお母さんにとっては、「心臓の病気」があること自体が大変なことではあるのですが、出来るだけベストな状態でお産を迎えてもらいたい私の立場としては、「見つけられてよかった・・・」と、とても安心したことを覚えています。


それ以来、確率は極めて低いものの、赤ちゃんの心臓の超音波はしっかり診ていかないといけない、と強く思うようになりました。


こういった赤ちゃんの心臓スクリーニングで話題になるのは、昔も今も

「大血管転位症」

が挙げられます。そして、もう一つが

「総肺静脈還流異常症」

という病気です。


「大血管転位症」に関しては、もう見つける自信があります。

ただ、「総肺静脈還流異常症」は何度勉強会に出ても見つける自信がつきません。

実際、講師をされている先生方も、しっかりチェックしていたのに見逃してしまった、という報告をされるほど、見つけるのが難しい病気です。

https://www.shouman.jp/details/4_45_57.html



この「総肺静脈還流異常症」というのは、「大血管転位症」の時に診る血管よりも相当細い血管を診なければならないため、診断をつけるのが本当に難しいのです。


そのため、今回の勉強会では、「総肺静脈」そのものを診るのではなく、「正常な総肺静脈」に比べて、「異常な総肺静脈」があれば、他の太い血管が心臓から離れて見えるので、他の太い血管の位置を診よう、というものです。

その方法を使えば、データ上は「総肺静脈還流異常症」は見逃さなくても済むだろう、その代わり「正常」な赤ちゃんも検査に引っかかってくるだろう、というものですが、ある程度精度の高い検査方法なので、実際の妊婦健診でも使っていきたいと思っています。



ここからは少し現実的なお話を・・・


もともと、こういった胎児超音波の勉強会がなぜ開かれているかというと、産婦人科医にとって「胎児超音波」というのは比較的新しい分野なのです。「超音波」という機械そのものが昔からあるわけではなく、「手術」や「お産」に比べて「上の先生から教えてもらう」機会というのが非常に限られているのが現状です。

そのため、妊婦健診をしている産婦人科医の中でも「胎児超音波」を熱心にしている産婦人科医と、そうじゃない産婦人科医の差が出てきてしまいます。


また、「産婦人科医」というのは、大きく「産科」と「婦人科」と二つに分かれているのです。

「産科」のスペシャリストは妊婦健診や胎児治療などの方面を極めていくことになりますが、「婦人科」のスペシャリストは「子宮癌や卵巣癌」などの腫瘍専門の道を極めることになります。

ただ、実際の臨床では、「産科」のスペシャリストも腫瘍の手術をしますし、「婦人科」のスペシャリストも「お産」や「妊婦健診」をやるのです。

そのため、「婦人科」の道を極めている先生にとって、妊婦健診の中の胎児エコーという分野は、少し苦手な分野になってしまうのです。

でも、妊婦さんにとっては「同じ妊婦健診」なんですよね。


胎児超音波の勉強会を主催されている講師の先生も「そこまで詳しい胎児超音波は要求しません。せめてこれくらいは・・・」という感じで、胎児超音波の普及に努めておられるのが現状です。


ですので、もし妊婦健診を受けている妊婦さんがいましたら、試しに「大血管転位ってないですか?」って聞いてみてください。

胎児超音波が好きな先生なら「お、それ聞きます?じゃぁ、大血管が交差するところ見せてあげようかな」って得意気になりますから。

もし、「大血管転位ってなに?」って先生だったら、、、普段の妊婦健診はその先生でも大丈夫ですが、胎児スクリーニングだけは詳しい病院で受けましょうね。


もちろん、うちのクリニックでも「大血管転位症」はちゃんと診ていますよ。


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