平和島レディースクリニック

診察室では説明しきれないことを中心に

出産の痛みと母性について

‪出産に対して「痛みに耐えてこそ」という考え方があります。‬

痛みを乗り越えて、下から産むことで「母性」が芽生える、という考え方のようです。

 

そのため、無痛分娩や帝王切開は「母性」にとってマイナスなんだとか、、、

 

正直、そういう考え方に直接触れたことはありませんが、ネット上ではそのような考え方に悩まされている人が多い様子。

 

日本に昔からある根性論というものでしょうか。

足腰を鍛えるためにウサギ跳びをするとか、水分補給は軟弱だという理由で真夏に水分を摂らせないとか、そういう類の考え方なんでしょうね。

 

私自身、何年も‪妊婦健診をする中で、お母さんのお腹の中で動く赤ちゃんをエコーで診て、文字通り「血の繋がり」を目の当たりにしてきました。

 

もう、それだけでものすごく「母性」を感じるのです。

 

お母さんの子宮の中に胎盤という一つの臓器が出来て、その胎盤から臍帯(へその緒)が伸びて、赤ちゃんの臍に繋がって、その一連の繋がりの中をお母さんの血液が流れているのです。

 

お母さんが体内に取り込んだ栄養が、胎盤から臍帯(へその緒)を通って赤ちゃんに送り込まれているのです。

 

当たり前といえば当たり前なんですが、「血の繋がり」で新たな命が育っている光景というのを妊婦健診でいつも見させてもらっています。

 

この「繋がり」だけで、母性は十分じゃないでしょうか。

 

 

また、私は男なので、どう頑張っても自分のお腹の中で命を育てる事ができません。

 

つわりや腰痛など大変な事も多い妊娠ですが、自分のお腹の中にもう一つの命がある、というのは本当に神秘的で、妊娠できない私には羨ましくて仕方がなかったりします。

 

もしも、医学が進歩して、男性も妊娠できるようになれば、是非とも経験したみたいと思っています。

 

それくらい自分のお腹の中に新しい命があることは、とてもとても素晴らしいことだと思っています。

 

妊娠初期には本当に小さい、数mmだった命が、日を追うごとに大きくなっていく。自分が口にした栄養がどんどん送り込まれて大きくなっていく、その過程だけで「母性」は十分ですよね。

 

24時間ずっと一緒にいるんですから。

 

その最後の瞬間、赤ちゃんがお母さんの体から離れる瞬間に、お母さんが痛みを感じるか否かなんて、母性とは全く関係ない話です。

 

赤ちゃんの命を優先して帝王切開することが、どうして母性に関わるのでしょうか。

 

これから先、何十年もある赤ちゃんの命にとって、最高のスタートを切るために帝王切開を選んだのです。誰だって手術なんてしたくないです、自分のお腹に大きな傷ができるんですから。産後は帝王切開の方が痛みが強かったりしますから。

 

それでも赤ちゃんのことを想って帝王切開を選んだんですから、それはもう最高の「母性」ですよ。

 

どういう形で赤ちゃんが出てくるか、ということと、お母さんの母性は全く関係ありません。

 

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいた何ヶ月間、そして、産まれた後、これから始まる長い育児、それが「母性」に繋がっていくんです。

 

産まれる瞬間の、その「方法」だけで左右されるような、そんな簡単なものは「母性」とは言わないです。

 

帝王切開や無痛分娩だと、、、と他人が評価するようなものは「母性」とは言わないです。

 

お腹の中で育てること、元気に産んであげたいと思うこと、産んだ後に大切に思うこと、それが「母性」です。

 

母性は主観的なものです。

 

客観的な他人の意見は、「母性」ではありません。あくまで「他人の意見」ですから。

 

産む方法、産んだ方法で悩んでいる方は、自分の「母性」に自信を持ちましょう。