平和島レディースクリニック

診察室では説明しきれないことを中心に

低用量ピルを飲んで血栓症になるリスクについて

低用量ピルに関する論文を見つけたので、今日はその論文について解説したいと思います。


低用量ピルによる肺塞栓、脳卒中心筋梗塞のリスク 500万人のフランス人女性に対する研究

Low dose oestrogen combined oral contraception and risk of pulmonary embolism, stroke, and myocardial infarction in five million French women: cohort study

2010年7月~2012年9月において、ピルを服用した15歳~49歳の女性500万人を対象に調査した論文です。

論文の対象となった人


対象となる女性は、癌にかかったことがある人や、肺塞栓・心筋梗塞脳卒中にかかったことのある人、慢性疾患にかかっている人は除かれています。

ピルを服用している544万3916人のうち、3253人に血栓症の副作用がありました。内訳は、肺塞栓が1800人(10万人中33人)、脳卒中が1046人(10万人中19人)、心筋梗塞が407人(10万人中7人)でした。

確率で言うと、0.06%と非常に低い確率で血栓症が起きています。

ピルの種類について


低用量ピルというのは、簡単に言うとEとPという二種類のホルモン剤を混ぜ合わせた薬なのですが、EとPの種類や用量によって、リスク分類をした結果・・・

Eは全て同じ種類で、20μgという量と、30-40μgという量で比較しています。

Pは用量での比較ではなく、種類の違いで比較しています。

デソゲストレル、ゲストーゲン、レボノルゲストレルという三種類のPについて比較しました。

まずは、同じPを使っている場合

Eが30-40μgに比べて、20μgしか使っていない場合は、肺塞栓は0.75倍、脳卒中が0.82倍、心筋梗塞が0.56倍と、Eが少ない方が血栓症の副作用は低いことがわかりました。



次に、Eの量が同じ場合

デソゲストレルとゲストーゲンはレボノルゲストレルと比べて肺塞栓は1.5~2倍になりました。

レボノルゲストレルに限定すると、Eの量が30-40μgより20μgの方が、明らかにリスクが低くなりました。


結局どういうこと?


同じ量のEを使っている場合、デソゲストレルやゲストーゲンより、レボノルゲストレルの方が、肺塞栓の確率は低い結果となりました(脳卒中心筋梗塞は変わらず)

日本で発売されている薬ではどうなの?

メジャーな薬として、ルナベル、ヤーズ、トリキュラーマーベロンを検証します。

ルナベルにはLDとULDがあり、LDはE:35μg ULDはE:20μg と、Eの量が変わっています。Pは、ノルエチステロンという種類です。

上の論文でも記載してあるように、Pの種類が同じなのであれば、Eは少ない方が血栓症の確率は低いはずなので、ULDの方が血栓症のリスクは低いだろうと思われます。

ヤーズは、E:20μgと低用量ですが、Pの種類がドロスピレノンと言って、上の論文では検証されていません。

トリキュラーは、E:30μgと、Pはノボノルゲストレル
マーベロンは、E:30μgと、Pはデソゲストレルになっています。

具体的に血栓症のリスクを比べてみた


トリキュラーで肺塞栓、脳卒中心筋梗塞が起こる確率を1とした場合、

ルナベルLDでは、肺塞栓:0.56 脳卒中:0.85、心筋梗塞:0.97
マーベロンは、肺塞栓:2.18 脳卒中:0.80 心筋梗塞:0・75

となっています。

数字だけ見ると、ルナベルLDが一番血栓症の確率は低そうです。

また、Eは少ない方が血栓症の確率は下がると思われるため、ルナベルLDよりULDの方がリスクは低いと言えそうです。


これらの血栓症の確率は、1万人に2人とか3人のレベルでのお話しですので、そこまで劇的に変わるものではありませんが、血栓症以外の副作用が特に変わらないのであれば、より血栓症のリスクが低い薬を選びたいですね。