現役産婦人科医の時間外診療

読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

現役産婦人科医の時間外診療

現役産婦人科医が診察室では説明しきれないことをまとめてみます

卵巣癌になりたくなかったら卵管を取ればいい

以前、卵巣癌のお話しを何回かしました。

obgyne.hatenablog.com


obgyne.hatenablog.com



人間ドッグや健康診断で、いろんな病気の早期発見・早期治療が期待されていますけど、卵巣癌だけはどうにも早期発見が難しいのです。ほとんどの卵巣癌が見つかったときには、かなり進行していることが多く、自覚症状が出たときには、すでに・・・ということが多いわけで。かといって、年に一度の検診では間に合わないし、半年に一度とか、3カ月に一度というのは現実的では無かったりします。


そんな卵巣がんに対して、卵管を切除すれば予防できるのではないか、という考え方があります。


これは、ACOGといって、アメリカの産科婦人科学会が発表したものであり、ACOGのHPにも記載されているのですが、

卵巣癌は卵巣から出来るのではなく、卵管から発生する


という説です。


卵巣癌の手術をすると、もちろん卵管が腫れている訳ではなくて、卵巣そのものが腫れているのですが、それは卵管に発生した癌組織が卵巣に波及して、卵巣を巻き込んだ結果とのこと。卵巣癌の遺伝子的は、卵巣より卵管の方が近いとも言われています。


1999年から2007年にかけて、BRCA遺伝子に変異のある方を対象に予防的に卵巣・卵管を取ったところ、5%の人に卵巣癌が見つかり、そのほとんどが卵管采という卵管の端の方に認められたという報告もあります。

BRCA遺伝子というのは、アンジェリーナジョリーが乳がんの予防目的で乳房切除をしたことで有名になりましたが、このBRCAという遺伝子に変異があると、乳がんや卵巣癌になるリスクが高いと言われています。




また、卵管を縛ることで卵巣癌を予防できる、というデータもあります。

卵管を縛るのは、例えば帝王切開を何回かした後に、もう出産の希望がない女性が、卵管を縛って妊娠しないようにする手術のことです。
もちろん、帝王切開の限度が何回までって決まっている訳ではないのですが、家族計画としてもう子供はいらないかな、という女性に対して、時々やることがある術式ですね。


obgyne.hatenablog.com



1979年から1988年にかけて、卵管結紮をした女性と、卵管結紮をしていない女性で比べたデータがあります。
それによると、卵管結紮をすることで、類内膜腺癌と明細胞腺癌というタイプの卵巣癌になる確率を3分の1から5分の1にまで下げられた、と報告されています。


なぜ卵管をしばると卵巣癌が防げるのか。

卵管を縛るだけでは卵管の組織は残ります。つまり、卵管から発生する癌は予防できないことになります。しかし、子宮の内側と卵巣とをつなぐ通り道を防ぐことで、子宮の内側にある子宮内膜という組織が生理の時に卵管を逆流することが防げるのです。つまり、類内膜腺癌や明細胞腺癌は子宮内膜が卵管を通って卵巣に到達することで発生すると考えられ、卵管を縛ることで癌の発生を予防できるとされています。


以上のように、卵巣癌とは卵巣に発生する癌なのに、その隣にある卵管という臓器が非常に大きな役割を果たしていると考えられるのです。


じゃあ、子宮取るときに卵巣も卵管も両方取ればいいじゃないって言われるかもしれませんが、卵巣を取ると、その時点で閉経状態になってしまいます。閉経すると、骨粗しょう症認知症心筋梗塞なんかのリスクが上がってしまうので、逆にQOLの低下や寿命を縮めることにも。なので、まだ自然に閉経していないのであれば、卵巣は残したいですよね。


65歳以降であれば、卵巣を残すメリットはほとんどないと言われているので、安心して卵巣を取れるのですが、それまでの方は、卵巣癌のリスクが特別高くない限り、卵巣は残すべきだと言われています。



まとめますと、卵管というのは妊娠するためには非常に大事な臓器なのですが、もう妊娠を考えない方にとっては、出来ることなら取っておきたい臓器ということになりますね。

卵巣癌予防のためだけに卵管を取る手術をする、というのは一般的ではありませんが、子宮筋腫や両性の卵巣腫瘍の手術をしたついでに卵管を取る、というのは十分選択肢として考えてもいいのではないでしょうか。