平和島レディースクリニック

診察室では説明しきれないことを中心に

妊娠中の甲状腺機能チェックしてますか?

当院では妊娠初期の採血項目として甲状腺機能を調べるようにしています。

 

それにはいくつか理由があるのですが、今回は妊娠中の甲状腺機能と生まれた赤ちゃんの喘息の関係についての論文を紹介したいと思います。

 

 

甲状腺というのは喉にある小さな臓器で体の活動に関わるホルモンを出しています。

その甲状腺の機能と赤ちゃんの喘息の関係についての論文です。

 

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/all.13365/abstract?systemMessage=Please+be+advised+that+we+experienced+an+unexpected+issue+that+occurred+on+Saturday+and+Sunday+January+20th+and+21st+that+caused+the+site+to+be+down+for+an+extended+period+of+time+and+affected+the+ability+of+users+to+access+content+on+Wiley+Online+Library.+This+issue+has+now+been+fully+resolved.++We+apologize+for+any+inconvenience+this+may+have+caused+and+are+working+to+ensure+that+we+can+alert+you+immediately+of+any+unplanned+periods+of+downtime+or+disruption+in+the+future.

 

 

こちらの論文では、59万人の赤ちゃんについて調べています。

 

その中で、出産前にお母さんの甲状腺機能低下が診断されていた赤ちゃんは3524人、出産後にお母さんが甲状腺機能低下を診断された赤ちゃんが4664人いました。

 

そして49000人近い赤ちゃんが喘息治療を受けていました。

 

結果的に甲状腺機能異常のなかったお母さんに比べて、出産前に甲状腺機能低下と診断されたお母さんから生まれた赤ちゃんでは喘息のリスクが1.16倍、産後に診断されたお母さんから生まれた赤ちゃんでは1.12倍になりました。

 

また、出産前に甲状腺機能低下と診断されて、妊娠中に治療を受けなかったお母さんから生まれた赤ちゃんでは、喘息のリスクが1.37倍になっていました。

 

以上のことから、妊娠時に甲状腺機能の検査をして治療しておくことは、赤ちゃんの喘息のリスクを下げるのに有効な手段だといえます。

 

 

実際、妊娠初期には、みんな血液検査を受けることになっています。その検査項目は、貧血や血糖値のチェックなど、ある程度やらないといけない項目が決まっているので、日本国内で検査を受けていれば、最低限の検査はみんな受けていることになります。

 

しかし、甲状腺機能の検査項目は必須ではありません。そのため、妊娠中に採血したのに、甲状腺機能は調べていない、ということも十分ありえます。

 

ですので、もし妊娠中に採血して、甲状腺機能を調べていないようであれば、一緒に検査をしてもらえるようにお願いしてみましょう。

 

それほど高い検査ではないので、それだけで赤ちゃんの喘息のリスクが下げられるのであれば、ぜひ受けておきたいですよね。

 

子宮奇形と妊娠の関係

普段の外来で超音波検査をしていると、ふいに


子宮が二つある


という患者さんを診ることがあります。

本来は子宮は一つなのですが、まだ生まれる前、お母さんのおなかの中にいる時期に臓器が作られる段階で、子宮が二つになってしまうことがあるのです。

これは生まれながらのものなので、生まれた後に何かをしたからそうなる、という関係性はありません。

また、ほとんど自覚症状も出ないため、何かのきっかけで婦人科を受診した時に、たまたま見つかる、ということがほとんどです。


この子宮が二つある、という状況は、大きく分けて

単頚双角子宮

双頚双角子宮

の二つに分かれます。


「単頚」というのは、子宮の出口の部分が一つで、「子宮体部」という赤ちゃんが妊娠する部分が二つに分かれているタイプです。

「双頚」というのは、子宮の出口の部分も子宮体部も二つあるので、完全に子宮が二個ある、というイメージです。


この「単頚」か「双頚」かで、妊娠した時の経過が大きく異なってきます。

それを示した論文がこちら

www.ncbi.nlm.nih.gov


73人の双角子宮の女性が妊娠し、22週以降に出産した場合の結果を比べてみました。

まず、単頚子宮の場合は、早産率が27%、胎盤早期剥離が14%になりました。

子宮奇形のない比較した群では早産率:5%、胎盤早期剥離:0.7%だったので、リスクの高さがわかるかと思います。

そして、双頚子宮の場合は、帝王切開率が90%近くになりました。これは、子宮の出口が二つあるために、赤ちゃんの通り道である子宮の出口がスペース的に上手く広がらないために、帝王切開になっている可能性が考えられます。


また別の論文では

www.ncbi.nlm.nih.gov

単頚双角子宮の場合は、早産率:8%
双頚双角子宮の場合は、早産率:30%
特に何もない方では早産率:0.8%

というデータが出ており、超音波検査で子宮の出口の長さを計測することで、早産予想が可能となっています。

もともと、お腹が張ったりして早産の心配があると、超音波で子宮の出口の長さを測るので、子宮奇形の場合には特に注意深く様子を見る必要がある、ということですね。


以上、子宮奇形と妊娠に関するデータを調べてみました。

今回紹介した論文は、妊婦さんの人数がそれほど多くないですし、早産率に関しては国によってまちまちなので、日本での確実なデータとして考えるのには問題がありますが、それでも子宮奇形がある場合には、早産になる可能性を考えて、注意深く診察をしていく必要があると言えます。

子宮がん検診で精密検査を受けてきたら

子宮がん検診とは子宮の表面を綿棒やブラシで擦り、取れた細胞を顕微鏡でみて検査をします。

その結果、正常と癌の間にある


異形成


という診断が下されることがあります。


これは、正常と癌の間にある状態なので、癌ではありませんが、そのまま放置しておくと、癌になってしまう可能性があるため、見つけた時点でしっかりフォローしていく必要があります。


その異形成の中でも、軽度・中等度・高度と分類することができ、軽度の方がより正常に近い状態と言えます。

軽度異形成は、英語表記すると


CIN1


となるため、検査の結果には、このように記載されていることが多いです。


CIN1が軽度異形成、CIN2が中等度異形成、CIN3が高度異形成と、数字が大きくなるにつれて癌に近づいていくイメージです。

CIN1だと、CIN3に進む確率は1~2割程度と言われていますが、30歳以下の方であれば90%近い確率で自然に治ることがわかっています。


そのため、CIN1が出た場合には、すぐに治療するのではなく、半年ごとにフォローしていく必要があります。

半年ごとに検査をして、2回連続で正常な結果になれば、通常の検診スケジュールに戻ることができます。



CIN2であった場合は、CIN3以上に進む確率が25%前後と言われています。やはり、多くの場合は自然に治るため、これから妊娠を考えている方や妊婦さんは、慎重に経過を診る必要があります。

CIN1では、半年ごとのフォローで大丈夫でしたが、CIN2の場合には、3~6カ月ごとにフォローすることになります。

そうして1~2年フォローしても治らない場合や、本人の強い希望がある場合には、CIN2も治療対象になってきます。

実際の治療では、


円錐切除


と言って、病変部分を含めて子宮の頚部を切り取る手術があります。これは子宮の出口に当たる頚部を切り取ることになるので、あまり大きく切り取ってしまうと、妊娠した時に早産や流産となるリスクが考えられます。

その他には、


レーザー蒸散


と言って、レーザーで病変部分を焼いてしまう治療法がありますが、これであれば将来の妊娠には影響がないと言われています。

主治医の先生とよく相談してみてくださいね。

DHA・EPAで早産が予防できる

一昔前に

DHA

というのが流行ったのをご存知でしょうか。


ドコサヘキサエン酸


という長い名前とともに、これを摂取すれば頭が良くなるとか、健康にいいとか、かなりテレビで取り上げられた時期がありました。


このDHAというものが、妊娠中に摂取することで早産を予防するのではないか、という論文を見つけたので、今回はそれを取り上げてみたいと思います。



その論文はコチラ


Effects of omega-3 fatty acids in prevention of early preterm delivery: a systematic review and meta-analysis of randomized studies.

Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2016 Mar;198:40-6. doi: 10.1016/j.ejogrb.2015.11.033. Epub 2015 Nov 30.


2016年に発表されたもので、

「早産予防におけるオメガ3脂肪酸の効果を様々な論文で検証したもの」

になります。



オメガ3脂肪酸というのは、DHA:ドコサヘキサエン酸や、EPA:エイコサペンタエン酸などの総称で、魚に多く含まれる成分です。

この論文では、このオメガ3脂肪酸が早産予防にどのような影響を与えるか、2014年までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryというデータベースを調べています。

9つの論文の中で4193人の妊婦さんについて調べたところ、オメガ3脂肪酸を摂取することで、

妊娠34週までの早産は58%減少
妊娠37週までの早産は17%減少


という結果になりました。


平均の在胎週数(産まれた週数)は、1.95週延長し、平均の出生体重は122.1g重くなりました。



早産で入院している妊婦さんの治療をしているときは、1週間でも2週間でも妊娠週数が伸びてくれるのを目指すので、このようにオメガ3脂肪酸の摂取だけで、在胎週数が1.95週も延長する、というのはとてと良い結果だと思います。


では、具体的にどれくらいの量をいつから摂ればいいのでしょうか。

この論文では、摂取量や摂取開始時期と効果に関連性はなかったと結論しています。

具体的には、

1日400㎎以下:291人、1日400㎎以上:5689人とグループ分けした場合でも、どちらのグループも早産予防効果は同等でした。

また、24週以前に開始したグループ:5156人と、24週以降に開始したグループ:824人で比較した場合でも、早産予防効果に大きな差は認められませんでした。

ただ、この比較を見ると、400㎎以下で24週以降は比較的人数が少ないデータですので、可能であれば、1日400㎎以上、24週以前に内服を始めるのが良さそうです。



これらDHAEPAは魚に多く含まれるのですが、魚だけから摂ろうとすると結構大変です。

というのも、大きい魚には食物連鎖の関係で、水銀が含まれることがあり、同じ魚ばかりを食べ続けるのは余りお勧めできないからです。

かといって、毎日どの魚なら大丈夫かと確認しながら食事を摂るのもかなり大変。


ですので、DHAEPAはサプリから摂るのがお勧め。

サプリによっては匂いが気になったり粒が大きかったりと、いろいろ種類があるので、いくつか試してみて、飲みやすいものを見つけてくださいね。

妊娠前に準備しておきたいこと~葉酸について

普段、外来をしていると


妊娠できますか


という質問をされることが、よくあります。


いわゆる不妊症の原因というのは、本当に多岐にわたるので、それらを一つずつチェックしていかないといけないのですが、いざ「妊娠の為の検査」を始めてみると、結果がすべてそろう前に


妊娠しました


といって来られる方が結構多いのです。



そこで、今回は「妊娠を考え始める前」に準備しておきたいことをまとめてみたいと思います。



まずは、


葉酸

これは、ほうれん草の葉っぱから発見されたビタミンB群の1種です。

葉酸は、野菜や柑橘類・レバーなどに多く含まれており、小腸で「モノグルタミン酸」という形で吸収されます。

しかし、これら食品中の葉酸の大部分は「ポリグルタミン酸」という形で存在し、「モノグルタミン酸」として消化吸収されるまでの過程で様々な影響を受けるため、生体利用率は50%以下と言われています。また水溶性ビタミンであるため、調理中に失われやすくなっています。

また、レバーから葉酸を摂取しようとすると、同時にビタミンAも多く摂ることになります。妊娠中にビタミンAを摂りすぎるのはよくないので、レバーの食べすぎには注意しなければなりません。


そのため、食事からの葉酸摂取ではなく、妊娠前から葉酸サプリを摂取することが大事になってきます。そうすることで、赤ちゃんに

神経管閉鎖障害

という先天奇形が生じる確率を下げることができる、と多くの論文で報告されているのです。


神経管閉鎖障害とは

妊娠初期に起こる先天異常のひとつです。

神経管とは、脳や脊髄など中枢神経系のもとになる細胞です。これらが妊娠初期に細胞分裂することで、脳や脊髄を始め、胎児の様々な神経細胞が作り出されます。

この神経管に閉鎖障害が起きた場合は二分脊椎と言います。脊髄の神経組織が脊椎の骨に覆われていないため、足の運動障害や排泄機能に障害がおこることがあります。

二分脊椎は、1万人に5.6人程度の確率と言われています。

また、神経管の上部に閉鎖障害が起きた場合、脳が形成不全となり、無脳症と呼ばれ、流産や死産の確率が高くなります。

葉酸を摂取することで、全ての神経管閉鎖障害を予防できるわけではありませんが、神経管閉鎖障害の発症リスクを軽減する方法のひとつとして葉酸の摂取が薦められています。


・いつから葉酸を摂取すればいいのか


赤ちゃんにとって、器官形成期という体の大事な臓器を作る期間が「妊娠4週から妊娠8週」と言われています。特に、中枢神経系の障害は妊娠7週までに発生するため、妊娠がわかってから葉酸を摂取していたのでは、遅くなってしまう可能性があります。

そのため、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで葉酸を摂取することが大切になるので、妊娠を考え始めた時点で葉酸のサプリを飲み始めたいですね。


・1日にどれくらい葉酸を摂取すればいいのか

野菜やレバーに多く含まれる葉酸ですが、熱に弱く、調理の時に50%近くが失われるか、水に溶けやすいため、ゆで汁に溶けだしてしまいます。

そのため、食事だけで必要な葉酸を摂取するのは難しく、また、上で説明した「神経管閉鎖障害」のリスクを下げるデータがあるのは、サプリのみとなっているため、サプリから葉酸を摂る必要があります。

1日に0.4mg=400μgの葉酸をサプリから摂ることで、神経管閉鎖障害のリスクが下げられるため、サプリを選ぶ際には、0.4mgという量を目安にしてください。

ちなみに、摂取量の目安は、1日0.4mgから1mgまでです。以前に神経管閉鎖障害のお子さんを出産したことのある方は1日4~5mgと決められているため、用量をしっかり守りましょう。


・サプリを選ぶポイント その1~葉酸が含まれる量~

上で説明したように、葉酸の必要量は1日0.4mgから1mgまでです。必要量をしっかり守れるサプリを選びましょう。

・サプリを選ぶポイント その2~葉酸の種類~

葉酸にはモノグルタミン型とポリグルタミン型という二つの種類がありますが、ポリグルタミン型は吸収率が低いため、妊娠の為のサプリとしては不適格です。必ず、モノグルタミン型を選びましょう。

そして、モノグルタミン型の葉酸の中にも「天然由来」と「化学物質由来」があります。天然由来は原材料が食品由来ということ。

どうせ飲むなら天然由来の方が安心ですね。

ちなみに、酵母葉酸という名前の葉酸サプリもありますが、神経管閉鎖障害の予防効果があると論文で示されているのは、酵母葉酸ではないので、モノグルタミン型の葉酸を選ぶようにしてくださいね。