DHA・EPAで早産が予防できる
一昔前に
というのが流行ったのをご存知でしょうか。
ドコサヘキサエン酸
という長い名前とともに、これを摂取すれば頭が良くなるとか、健康にいいとか、かなりテレビで取り上げられた時期がありました。
このDHAというものが、妊娠中に摂取することで早産を予防するのではないか、という論文を見つけたので、今回はそれを取り上げてみたいと思います。
その論文はコチラ
Effects of omega-3 fatty acids in prevention of early preterm delivery: a systematic review and meta-analysis of randomized studies.
Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2016 Mar;198:40-6. doi: 10.1016/j.ejogrb.2015.11.033. Epub 2015 Nov 30.
2016年に発表されたもので、
「早産予防におけるオメガ3脂肪酸の効果を様々な論文で検証したもの」
になります。
オメガ3脂肪酸というのは、DHA:ドコサヘキサエン酸や、EPA:エイコサペンタエン酸などの総称で、魚に多く含まれる成分です。
この論文では、このオメガ3脂肪酸が早産予防にどのような影響を与えるか、2014年までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryというデータベースを調べています。
9つの論文の中で4193人の妊婦さんについて調べたところ、オメガ3脂肪酸を摂取することで、
妊娠34週までの早産は58%減少
妊娠37週までの早産は17%減少
という結果になりました。
平均の在胎週数(産まれた週数)は、1.95週延長し、平均の出生体重は122.1g重くなりました。
早産で入院している妊婦さんの治療をしているときは、1週間でも2週間でも妊娠週数が伸びてくれるのを目指すので、このようにオメガ3脂肪酸の摂取だけで、在胎週数が1.95週も延長する、というのはとてと良い結果だと思います。
では、具体的にどれくらいの量をいつから摂ればいいのでしょうか。
この論文では、摂取量や摂取開始時期と効果に関連性はなかったと結論しています。
具体的には、
1日400㎎以下:291人、1日400㎎以上:5689人とグループ分けした場合でも、どちらのグループも早産予防効果は同等でした。
また、24週以前に開始したグループ:5156人と、24週以降に開始したグループ:824人で比較した場合でも、早産予防効果に大きな差は認められませんでした。
ただ、この比較を見ると、400㎎以下で24週以降は比較的人数が少ないデータですので、可能であれば、1日400㎎以上、24週以前に内服を始めるのが良さそうです。
これらDHAやEPAは魚に多く含まれるのですが、魚だけから摂ろうとすると結構大変です。
というのも、大きい魚には食物連鎖の関係で、水銀が含まれることがあり、同じ魚ばかりを食べ続けるのは余りお勧めできないからです。
かといって、毎日どの魚なら大丈夫かと確認しながら食事を摂るのもかなり大変。
サプリによっては匂いが気になったり粒が大きかったりと、いろいろ種類があるので、いくつか試してみて、飲みやすいものを見つけてくださいね。
妊娠前に準備しておきたいこと~葉酸について
普段、外来をしていると
妊娠できますか
という質問をされることが、よくあります。
いわゆる不妊症の原因というのは、本当に多岐にわたるので、それらを一つずつチェックしていかないといけないのですが、いざ「妊娠の為の検査」を始めてみると、結果がすべてそろう前に
妊娠しました
といって来られる方が結構多いのです。
そこで、今回は「妊娠を考え始める前」に準備しておきたいことをまとめてみたいと思います。
まずは、
葉酸
これは、ほうれん草の葉っぱから発見されたビタミンB群の1種です。
葉酸は、野菜や柑橘類・レバーなどに多く含まれており、小腸で「モノグルタミン酸」という形で吸収されます。
しかし、これら食品中の葉酸の大部分は「ポリグルタミン酸」という形で存在し、「モノグルタミン酸」として消化吸収されるまでの過程で様々な影響を受けるため、生体利用率は50%以下と言われています。また水溶性ビタミンであるため、調理中に失われやすくなっています。
また、レバーから葉酸を摂取しようとすると、同時にビタミンAも多く摂ることになります。妊娠中にビタミンAを摂りすぎるのはよくないので、レバーの食べすぎには注意しなければなりません。
そのため、食事からの葉酸摂取ではなく、妊娠前から葉酸サプリを摂取することが大事になってきます。そうすることで、赤ちゃんに
神経管閉鎖障害
という先天奇形が生じる確率を下げることができる、と多くの論文で報告されているのです。
神経管閉鎖障害とは
妊娠初期に起こる先天異常のひとつです。
神経管とは、脳や脊髄など中枢神経系のもとになる細胞です。これらが妊娠初期に細胞分裂することで、脳や脊髄を始め、胎児の様々な神経細胞が作り出されます。
この神経管に閉鎖障害が起きた場合は二分脊椎と言います。脊髄の神経組織が脊椎の骨に覆われていないため、足の運動障害や排泄機能に障害がおこることがあります。
二分脊椎は、1万人に5.6人程度の確率と言われています。
また、神経管の上部に閉鎖障害が起きた場合、脳が形成不全となり、無脳症と呼ばれ、流産や死産の確率が高くなります。
葉酸を摂取することで、全ての神経管閉鎖障害を予防できるわけではありませんが、神経管閉鎖障害の発症リスクを軽減する方法のひとつとして葉酸の摂取が薦められています。
・いつから葉酸を摂取すればいいのか
赤ちゃんにとって、器官形成期という体の大事な臓器を作る期間が「妊娠4週から妊娠8週」と言われています。特に、中枢神経系の障害は妊娠7週までに発生するため、妊娠がわかってから葉酸を摂取していたのでは、遅くなってしまう可能性があります。
そのため、妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで葉酸を摂取することが大切になるので、妊娠を考え始めた時点で葉酸のサプリを飲み始めたいですね。
・1日にどれくらい葉酸を摂取すればいいのか
野菜やレバーに多く含まれる葉酸ですが、熱に弱く、調理の時に50%近くが失われるか、水に溶けやすいため、ゆで汁に溶けだしてしまいます。
そのため、食事だけで必要な葉酸を摂取するのは難しく、また、上で説明した「神経管閉鎖障害」のリスクを下げるデータがあるのは、サプリのみとなっているため、サプリから葉酸を摂る必要があります。
1日に0.4mg=400μgの葉酸をサプリから摂ることで、神経管閉鎖障害のリスクが下げられるため、サプリを選ぶ際には、0.4mgという量を目安にしてください。
ちなみに、摂取量の目安は、1日0.4mgから1mgまでです。以前に神経管閉鎖障害のお子さんを出産したことのある方は1日4~5mgと決められているため、用量をしっかり守りましょう。
・サプリを選ぶポイント その1~葉酸が含まれる量~
上で説明したように、葉酸の必要量は1日0.4mgから1mgまでです。必要量をしっかり守れるサプリを選びましょう。
・サプリを選ぶポイント その2~葉酸の種類~
葉酸にはモノグルタミン型とポリグルタミン型という二つの種類がありますが、ポリグルタミン型は吸収率が低いため、妊娠の為のサプリとしては不適格です。必ず、モノグルタミン型を選びましょう。
そして、モノグルタミン型の葉酸の中にも「天然由来」と「化学物質由来」があります。天然由来は原材料が食品由来ということ。
どうせ飲むなら天然由来の方が安心ですね。
ちなみに、酵母葉酸という名前の葉酸サプリもありますが、神経管閉鎖障害の予防効果があると論文で示されているのは、酵母葉酸ではないので、モノグルタミン型の葉酸を選ぶようにしてくださいね。
女性アスリートとドーピング
競技レベルで活躍している運動選手が生理不順で受診されることがあります。
詳しく聞いてみると、競技の為に過度な食事制限をしていたり、かなり厳しいトレーニングを積んでいるため、数カ月どころか年単位で生理不順が続いている方もいます。
そういった女性アスリートによく見られる問題として、無月経・摂食障害・疲労骨折という3つの特徴が指摘されています。
特に、新体操や体操系の競技、陸上長距離やトライアスロンのような持久系の競技で、無月経や疲労骨折が多く見られ、その他の競技に比べて2~3倍確率が高いと言われています。
わかりやすい基準としては、
BMI:17.5kg/㎡未満
という状態が続くと、無月経になりやすく、それが疲労骨折のリスクにつながってきます。
ちなみに、BMIというのは
体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)
で計算することができます。身長は「cm」じゃなくて、「m」で計算して下さいね。
身長160㎝、体重50kgなら、50 ÷ 1.6 ÷ 1.6 = 19.5 となります。
アスリートの方にとって骨折のリスクは出来るだけ避けたいでしょうから、骨密度は一度は測っておいた方がいいと思います。
お近くの整形外科で簡単に測れることが多いので、競技レベルでのアスリートの方は、一度測ってみてくださいね。
実際に骨密度が低下していなくても無月経が続くと骨密度が低下していき疲労骨折のリスクとなってしまうため、ホルモン治療が必要になることが多いです。
その時に心配になるのが、競技とドーピングの関係ですね。
これに関しては、
日本アンチ・ドーピング機構 | Japan Anti-Doping Agency (JADA)
というところが、毎年1月に禁止薬物を発表しているので、ぜひ参考にしてみてください。
婦人科でよく使うピル関係は、ほとんどドーピングには引っかからないので、安心して使ってもらえると思います。
漢方薬は「体に優しい」というイメージがありますが、その中にはドーピングに引っかかるものもあるので注意が必要です。
サプリメントに関しても同様に禁止物質が含まれることがあるので、注意して下さいね。
ちなみに、禁止物質を治療目的で使用しなければならない場合は、治療使用特例というのを申請し、認められれば使用可能となります。それに関しても、先ほどの
日本アンチ・ドーピング機構 | Japan Anti-Doping Agency (JADA)
から申請書をダウンロードできるようになっているので、かかりつけの先生と相談してくださいね。
妊娠中と授乳中の性器ヘルペスについて
ヘルペスは一度感染してしまうと、痛みは治っても、ヘルペスのウィルス自体はずっと体の中に残り続けてしまいます。
そのため、妊娠前に感染したとしても、妊娠中にヘルペスが再発するのは、よくあるお話。
また、運悪く妊娠少し前にヘルペスをもらってしまい、妊娠初期にヘルペスの痛みが出てしまうこともあります。
特に、初めて症状が出てきた場合のヘルペスは、かなり痛くなることも。
そこで、今回は妊娠中のヘルペス治療について説明したいと思います。
2010年の海外の論文ですが、妊娠中のヘルペス治療薬と赤ちゃんの奇形発生率について、83万7795人の妊婦さんを調査しました。
ヘルペス治療薬(バラシクロビル、アシクロビル、ファムシクロビル)を使用した1804人のうち、2.2%の赤ちゃんに奇形があり、治療薬を使っていない19920人には2.4%に奇形がありました。
妊娠初期にバラシクロビルを使用したグループでは奇形率は3.1%、アシクロビルでは2.0%、ファムシクロビルでは3.8%でした。
(ファムシクロビルが少し高くなっていますが、26人にしか投与していないため、確率が高く出ている可能性はあります)
一般的に、赤ちゃんに奇形が生じる確率は3%前後であるため、妊娠初期にバラシクロビルとアシクロビルを使用しても、赤ちゃんの奇形の確率は上がらないだろう、という結論になります。
また、授乳中にバラシクロビルを内服し、赤ちゃんに授乳した論文もあります。
その論文では、お母さんが抗ヘルペス薬を内服して授乳すると、赤ちゃんにも抗ヘルペス薬が移行するのですが、その量はとても少ないことが示されています。
(授乳によって移行する量は、ヘルペスに感染した赤ちゃんを治療するために使う量の0.2%ほどでした)
このため、授乳中のヘルペス治療にはアシクロビルやバラシクロビルを使ってもいいと考えられています。
ちなみに、妊娠後期にヘルペスの症状が出てしまった場合は、特別に注意が必要です。
分娩の瞬間にヘルペスの病変があると、赤ちゃんに感染するリスクが高くなってしまうため、経腟分娩ではなく帝王切開になることが多いです。
また、分娩1か月以内に初めて感染して初めて症状が出た場合や、分娩1週間以内に再発した場合も、帝王切開が選択肢になるため、注意が必要ですね。
クリニック開院1年目を振り返って
早いもので、今年の6月に開院して、もう半年が経ちました。
振り返ってみると、合計1200人もの方に受診してもらいました。
それだけ多くの方の悩み相談に乗れたと思うと、感慨深いものがあります。
総合病院で勤務していたころは、時間内にとても多くの患者さんを診ていたので、どうしても時間に追われる事が多かったのですが、開業してからは自分のペースで予約枠を設定できるので、しっかり説明できているかな、と思っています。
幸い、問診票の受診理由に「友人の紹介」や「ご家族の紹介」を選んでいただく患者さんも増えてきました。
今まで総合病院では「受診理由」を確認したこともなかったですし、おそらく「大きい病院だから」「開業医さんから紹介されたか」という理由がほとんどだったと思うので、「自分自身の診療」を認めてもらえるのは、大変ありがたいな、としみじみ思っています。
クリニックの内装は整ったものの、患者さんに説明する資料がまだまだ足りない部分があるので、来年はもう少し整えていき、患者さんが疑問に思っていることを出来るだけ解決できるクリニックづくりを進めていきたいと思います。
また、どうしてもクリニック目線での行動が増えてしまうのですが、患者さん目線で「こうした方がいい」という意見があれば、どんどん取り入れていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。
それでは、良いお年を。