平和島レディースクリニック

診察室では説明しきれないことを中心に

妊娠とボトックス注射について

美容整形がメジャーになるにつれ、妊娠に気づかずに美容整形を受けてしまった、というお悩みが増えてきているようです。


そこで、今回は美容整形の中でも比較的手軽に受けることができる

ボトックス注射


について説明したいと思います。



まず、ボトックス注射というのは、ボツリヌス菌という細菌が作り出す毒素から作られている薬です。


ボツリヌス菌といえば、赤ちゃんがハチミツを食べるとダメ、という話の時に出てくるアレですね。

ハチミツにはボツリヌス菌という細菌が含まれていることがあり、大人であればそれほど問題にはならないのですが、赤ちゃんの場合には命に関わる可能性があるため、赤ちゃんはハチミツを食べてはいけないのです。


そんなボツリヌス菌が作り出す毒素ですが、局所にごく少量注射することで、しわが改善したり、筋肉が小さくなることがわかっています。
そのため、目じりや額のしわに対して注射することで若返ったり、えらの筋肉に注射することで、小顔になる効果が期待できます。


痛みもそれほどないので、気軽に注射をする人が増えてきている、とのことですが、それは世界的にも同じ傾向。
そして、注射をした後に、妊娠に気づいた、という人も増えてきているようです。


そこで、ボトックス注射と妊娠に関する論文を調べてみました。



まず、お母さんの体内に入った薬が赤ちゃんに到達するのかどうか、という話ですが、胎盤には赤ちゃんを守るためのバリアの役割があります。
もの凄く小さいものは、そのバリアを通り抜けてしまうのですが、ある程度の大きさであれば、胎盤のバリアにブロックされて、赤ちゃんには影響がでない、という理屈ですね。

では、胎盤はどの程度の大きさまでブロックできるのか、というと

分子量1000

を超えてくると、ほとんどブロックできると言われています。


では、ボツリヌス菌の毒素の分子量はどれくらいかというと


150000!!!


実に15万の分子量があります。胎盤のバリアから比べると、とてつもなく大きな物質なのです。

このことから、理論上はお母さんにボトックスを注射しても赤ちゃんには影響が出ない、と考えられます。



次に海外のデータになりますが、ボトックス注射の動物実験のデータです。

FDAというアメリカの公的機関が発表している、ボトックスの製品情報内にデータがありました。

https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2011/103000s5236lbl.pdf


妊娠中のウサギやネズミの器官形成期(赤ちゃんに対する薬の影響が最も出る時期)に2回ボトックス注射をしました。

それぞれ、4単位/kg、8単位/kg、16単位/kgという量を投与したのですが、8単位・16単位では赤ちゃんの体重減少や骨格異常が出たものの、4単位では影響がありませんでした。

この「4単位/kg」というのは、人間に換算すると、540単位にもなります。

おそらく美容整形では、10単位、20単位程度の投与と思われるので、まず問題ない投与量と言えるでしょう。


また、0.25単位/kgを13回投与した妊娠中のウサギでも問題はなかった、というデータもあります。

これは、人間に換算すると400単位以上になるので、やはり美容整形では問題にならないレベルでしょう。



次に、実際に妊娠に気づかずにボトックス注射をしてしまった人たちのデータです。


http://www.ijwdonline.org/article/S2352-6475(17)30005-9/fulltext

こちらの論文によると

Hooft et al. (2015)) reported the administration of an intrasphincteric injection of botulinum toxin A at 14 weeks of gestation with no adverse fetal outcomes and otherwise healthy term deliveries.

妊娠14週でボトックス注射をして問題なかったという報告や、


Wataganara et al. (2009)) reported a similar case where botulinum toxin A was injected at 33 weeks of gestation to treat persistent achalasia and subsequent malnutrition.

妊娠33週でアカラシアという病気の治療のためにボトックス注射をして問題なかったという報告、


Robinson and Grogan (2014)) reported on the safe administration of onabotulinum toxin A at 18 weeks of gestation to treat migraine prophylaxis in a woman with refractory migraine headaches. No adverse effects were reported in the infant who was followed for 6.5 years (Robinson and Grogan, 2014).

片頭痛に対して、妊娠18週にボトックス注射をして、子供を6年半追跡しても問題なかった、という報告


Bodkin et al. (2005)) reported two cases of inadvertent botulinum toxin A injection during the first trimester of pregnancy in patients who were treated for cervical dystonia. One patient who had a prior history of miscarriages had a miscarriage at 10 weeks at which time she was noted to have a twin pregnancy (Bodkin et al., 2005).

一方で、筋緊張症に対して妊娠初期にボトックス注射をした2名のうち、1名は双子を妊娠していて、妊娠10週で流産した、という報告もあります。

Newman et al. (2004)) reported the case of a woman with severe cervical dystonia who was treated with botulinum toxin injection throughout four consecutive pregnancies. No complications were reported with the delivery or health of any of her four children (Newman et al., 2004).

こちらの報告では、同じく筋緊張症に対してボトックス注射をしていた方が、妊娠中も注射を継続し、4人のお子さんを出産したものの、何も問題はなかった、とされています。


Two cases of cosmetic use of botulinum toxin were reported by de Oliveira Monteiro (2006)) in two women at 6 and 5 weeks of gestation with no fetal adverse events.


こちらは、妊娠5週と6週にそれぞれボトックス注射をした2名の方は、2人とも元気な赤ちゃんを出産した、という報告です。

A 2006 survey of 900 physicians that was conducted by Morgan et al. (2006)) ascertained that 12 physicians had experiences with incidental botulinum toxin injection in 16 patients who were pregnant. Only one patient with a history of spontaneous abortions experienced a miscarriage after injection of botulinum toxin (Morgan et al., 2006). There is concern that high doses (>600 U) of onabotulinum toxin is associated with cases of systemic weakness (Lee et al., 2013). However, doses that are used in cosmetic procedures are usually less than 100 units.

16人の妊婦さんが妊娠中にボトックス注射をしましたが、そのうち1名だけが流産しているものの、その方は600単位のボトックス注射をしており、美容整形で注射する量に比べれば、相当量が多い方でした。



以上のように、妊娠中のボトックス注射に関しては、いくつもの報告がありますが、



胎盤を通過できないような分子量の大きさ


であったり、


明らかに赤ちゃんに悪い影響が出ると結論づける論文はないこと


などから、妊娠に気づかずに美容整形でボトックス注射を受けていても、ことさら心配することはない、と言えるでしょう。

出産の痛みと母性について

‪出産に対して「痛みに耐えてこそ」という考え方があります。‬

痛みを乗り越えて、下から産むことで「母性」が芽生える、という考え方のようです。

 

そのため、無痛分娩や帝王切開は「母性」にとってマイナスなんだとか、、、

 

正直、そういう考え方に直接触れたことはありませんが、ネット上ではそのような考え方に悩まされている人が多い様子。

 

日本に昔からある根性論というものでしょうか。

足腰を鍛えるためにウサギ跳びをするとか、水分補給は軟弱だという理由で真夏に水分を摂らせないとか、そういう類の考え方なんでしょうね。

 

私自身、何年も‪妊婦健診をする中で、お母さんのお腹の中で動く赤ちゃんをエコーで診て、文字通り「血の繋がり」を目の当たりにしてきました。

 

もう、それだけでものすごく「母性」を感じるのです。

 

お母さんの子宮の中に胎盤という一つの臓器が出来て、その胎盤から臍帯(へその緒)が伸びて、赤ちゃんの臍に繋がって、その一連の繋がりの中をお母さんの血液が流れているのです。

 

お母さんが体内に取り込んだ栄養が、胎盤から臍帯(へその緒)を通って赤ちゃんに送り込まれているのです。

 

当たり前といえば当たり前なんですが、「血の繋がり」で新たな命が育っている光景というのを妊婦健診でいつも見させてもらっています。

 

この「繋がり」だけで、母性は十分じゃないでしょうか。

 

 

また、私は男なので、どう頑張っても自分のお腹の中で命を育てる事ができません。

 

つわりや腰痛など大変な事も多い妊娠ですが、自分のお腹の中にもう一つの命がある、というのは本当に神秘的で、妊娠できない私には羨ましくて仕方がなかったりします。

 

もしも、医学が進歩して、男性も妊娠できるようになれば、是非とも経験したみたいと思っています。

 

それくらい自分のお腹の中に新しい命があることは、とてもとても素晴らしいことだと思っています。

 

妊娠初期には本当に小さい、数mmだった命が、日を追うごとに大きくなっていく。自分が口にした栄養がどんどん送り込まれて大きくなっていく、その過程だけで「母性」は十分ですよね。

 

24時間ずっと一緒にいるんですから。

 

その最後の瞬間、赤ちゃんがお母さんの体から離れる瞬間に、お母さんが痛みを感じるか否かなんて、母性とは全く関係ない話です。

 

赤ちゃんの命を優先して帝王切開することが、どうして母性に関わるのでしょうか。

 

これから先、何十年もある赤ちゃんの命にとって、最高のスタートを切るために帝王切開を選んだのです。誰だって手術なんてしたくないです、自分のお腹に大きな傷ができるんですから。産後は帝王切開の方が痛みが強かったりしますから。

 

それでも赤ちゃんのことを想って帝王切開を選んだんですから、それはもう最高の「母性」ですよ。

 

どういう形で赤ちゃんが出てくるか、ということと、お母さんの母性は全く関係ありません。

 

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいた何ヶ月間、そして、産まれた後、これから始まる長い育児、それが「母性」に繋がっていくんです。

 

産まれる瞬間の、その「方法」だけで左右されるような、そんな簡単なものは「母性」とは言わないです。

 

帝王切開や無痛分娩だと、、、と他人が評価するようなものは「母性」とは言わないです。

 

お腹の中で育てること、元気に産んであげたいと思うこと、産んだ後に大切に思うこと、それが「母性」です。

 

母性は主観的なものです。

 

客観的な他人の意見は、「母性」ではありません。あくまで「他人の意見」ですから。

 

産む方法、産んだ方法で悩んでいる方は、自分の「母性」に自信を持ちましょう。

 

 

 

 

 

私の好きな街

私は信州大学という長野県にある大学の出身ですが、育ったのは滋賀県です。


高校時代までずっと滋賀県に住んでいたのですが、大学受験を機に長野県に引っ越しました。


今でもはっきり覚えているのですが、私が信州大学を選んだのは


地図帳の最後の気温グラフ


を見たからです。



小さいころから、私は暑がりだったので、とにかく暑いのが嫌いでした。


そのため、どこの医学部に進もうか迷っていたときに、地図帳の気温グラフを見て、涼しい場所を基準に選んだのです。


都道府県の気温グラフを見て、長野県は夏が涼しい!!北海道も夏が涼しい!!!


そんな基準で大学を選びました。


あと、雨も嫌いだったので、降水量が少ない地域、というのも重要なポイントです。



そんな理由で長野県の大学に進学したのですが、その選択が正しかったと感じたのは、1年目の夏でした。

部活で真夏の炎天下の中、汗だくで練習していたのですが、ちょっとした休憩時間に日陰に入ったら、真夏とは思えないくらい涼しかったんです。

滋賀県にいたころは、夏はどこに行こうが暑かったのです。日陰なんて何の役にも立ちませんでした。それが長野県だと、日陰に入るだけで涼しく感じるんです。これはもう本当に感動しました。

しかも、夜になると涼しくなるので、夜はクーラーがいらないんです。

少し暑いなと思えば、窓を開けるだけで涼しくなるので、これも感動しました。

それまで、夏の夜はクーラーをかけていないと暑くて眠れない、というのが普通だったので、同じ日本でもこんなに違うのかと本当に驚きました。

長野県を選んで間違いなかった!と思ったものです。



ただ、冬の寒さは予想以上でした・・・

長野県の冬は

寒い

というより

痛い

んです。


4月の新入生への説明の時に、冬は髪を濡らして自転車に乗ると凍る、なんて脅されていて、「それはオーバーだろう」と高をくくっていたのですが、、、

本当に凍りました!

鼻水も涙も凍るんです。

真冬はとても自転車なんて乗れません。


そして、何より、耳が痛いんです。寒いんじゃなくて、痛いんです。

もう耳がちぎれるんじゃないかってくらい痛いんです。

これだけは予想以上でした。

モコモコの耳あては必需品なので、真冬に長野県に行く方は、お気をつけください。


それでも、やっぱり長野県は良いところです。

水道水は普通に美味しいです。

(長野県のスーパーで「南アルプスの天然水」を買っている人がいるのは不思議ですが、、、)


少し車を走らせれば、テレビで「避暑地」として特集されるような緑に囲まれた道路が沢山あります。


本当に長野県は良いところです。

大学受験する時、地図帳の気温グラフから、北海道と長野県を選んだのは正解でした。


なぜ、北海道じゃなくて長野県に進学したのか・・それは、北海道大学



受験して落ちたからです!!!



お題「好きな街」

性病検査のススメ

おりものが増えた

デリケートゾーンのかゆみ

おりものがにおう

下腹部が痛い



このような症状があって受診される

患者さんには、クラミジア

淋菌の検査をおすすめしています。



クラミジアや淋菌は感染してから

放置しておくと、不妊症の原因に

なるため、もし感染しているので

あれば、出来るだけ早く見つけて

治療することが必要です。



特にクラミジアと淋菌に関しては

感染したとしても、全く症状が

出ないこともあるのが厄介なところ。


そのため、心配であれば検査をするしか

方法はありません。



また、性病というものに対する

イメージとして、


「私は大丈夫」


「私のパートナーは大丈夫」


と思いがちですが、性病というものは

一度でも性行為をした経験があれば

感染する可能性はあるのです。



100%の確率で二人の間でしか

性行為の経験がないのであれば、

そこに性病が入る余地はありませんが、

一度でも他の方との性行為の

経験があれば、性病の可能性は

否定できなくなってきます。



また、婦人科でよく調べるのは

子宮に感染しているクラミジア

淋菌ですが、これらの性病は

子宮だけではなく、のどにも

感染している可能性があるのです。



そのため、子宮を調べて問題なかったと

しても、のどの検査も受けないと

いつ子宮に感染してしまうか

わからない状態が続いてしまいます。





クラミジアや淋菌は



症状が出ない可能性

放置すると不妊に繋がる可能性

子宮だけでなく咽頭にも感染している

可能性



という特徴があります。



そのため、一度も検査をしたことが

無い方や、パートナーが新しくなった方、

心配なことがある方は、ぜひ

検査を受けるようにして下さいね。

ミレーナに関する質問についてお答えします。

先日、私が書いたミレーナの記事に対して

読者の方から質問をいただいたので、そちらに

お答えしたいと思います。






・子宮頸がんとの関連性はありますか?


子宮頸がんはHPVというウイルスが原因で

あり、ミレーナは子宮の奥に入れる

ホルモン剤をしみ込ませた棒ですので、

関連性はないと思われます。


確かにミレーナを入れることで頸管粘液が

変化しますが、粘液がHPVというウイルスに

影響を与えるとは考えにくいです。



現状では、ミレーナと子宮頸癌の関連性を

示した論文もありませんので、ひとまず

安心してもらっていいのではないでしょうか。


子宮頸がん検診への影響も考えなくて

いいと思います。



・ミレーナと子宮体がんについて


ミレーナを入れると、しばらくは不正出血が

続きます。それはホルモン剤の影響で

どうしても出てしまう副作用です。


そのため、子宮体がんの初期症状としての

不正出血なのか、ミレーナの副作用による

不正出血なのか、見分けがつきにくくなる

ことはあります。


ただ、ミレーナを入れて数カ月もすれば

不正出血は減ってくるので、その点で

見分けるのも一つの手です。



子宮体がんの検査では、子宮内膜の

細胞を取るのですが、ミレーナが子宮

内膜の部分にあると、物理的に細胞が

取りにくくなる、という点はあるでしょう。


多くの場合は、子宮体がんだと子宮内膜が

分厚くなるので、それは超音波である程度

診断することが可能です。


ミレーナを入れた後、しばらくは不正出血が

続きますが、それが落ち着いてきた後に

再度不正出血が出始めるようであれば

詳しく調べる、という方針でいいと

思います。


・ミレーナと性交後の出血について


ミレーナと性交後の出血との関連は

ないでしょう。ミレーナ自体は子宮の

奥の方に入っていますし、子宮の出口

部分からは、ミレーナを取り出す時の

為の柔らかい糸が出ているだけですから、

性交時の出血には影響が出ないと

思われます。



以上、ご質問に対しての回答でした。


普段の外来でも、できるだけ疑問には

お答えしたいと思っていますが、なかなか

いざ診察となると、質問が出てこない、って

ことも多いと思いますので、また何か

ありましたら、質問してもらえれば

と思います。