不思議な飲み物
私の祖母は京都に住んでいました。
私自身、京都の病院で里帰り出産だったのですが、家は滋賀県だったので、年末年始には京都にある祖父母の家に遊びに行っていました。
鴨川沿いにある中華料理屋さんで、お皿を乗せた台がクルクル回るのを初めて見て、大興奮したのを覚えています。それ以来、お正月といえばおせち料理より「クルクル回る中華料理」と言うイメージが付いてしまったくらいです。
また、別のお正月には、京都市内のホテルで親族一同が集まって、バイキングで正月を祝ったことも何度かありました。
いとこの中で私が1番小さかったので、毎年みんなに可愛がってもらい、とても楽しかった記憶があります。
そんな中で、おばあちゃんの思い出といえば、おばあちゃん家に行くと必ず出してもらえる、甘くて美味しい飲み物でした。
家では、あまりジュースとかは飲まなくて、基本的にご飯の時は水かお茶とだったので、この「おばあちゃん家の甘い飲み物」は本当に魅力的だったのを覚えています。
いつしか、お正月にしか飲めない特別な飲み物になっていて、毎年それが楽しみでおばあちゃん家に行ってました。
ところが、大学生になった頃、ふいにその「不思議な飲み物」の正体を知ることになりました。
大学に進んで一人暮らしを始めて、何気なくレストランで頼んだ飲み物が、まさしく「おばあちゃん家の甘い飲み物」だったのです。
それは
ミルクティー
でした。
・・・すいません、大したオチではなくて。
でも、個人的には大発見でした。
ミルクティーという名前だけは聞いたことがあったけど飲んだことのない飲み物が、まさかずっと気になっていた飲み物だったのですから。
それ以来、ミルクティーを飲む度に、おばあちゃん家の庭に面した椅子に座ってみんなで飲む光景が懐かしく思い浮かびます。
私にとって、おばあちゃんの思い出は、ミルクティーとクルクル回る中華料理なのです。
と思っていたら、その「中華料理屋さん」を取り上げているブログを発見しました。
http://kuchiki-kohjiro.hatenablog.com/entry/2017/07/02/050500
当時も今も変わらない、雰囲気のある建物です。お近くに行かれた際は、ぜひ一度行って見てくださいね。
がん家系かどうか気になりませんか
時々、「母に癌が見つかって」「祖母が癌で亡くなっていて」のように、近い家族に癌患者さんがいると、ご自身の癌を心配される方がいらっしゃいます。
そこで、今回は
がん家系
について説明したいと思います。
婦人科的に「がん家系」として以前話題になったのは、アンジェリーナジョリーさんが癌予防のために乳房を切除した、というニュースが流れた時でした。
乳がんと卵巣癌は密接に関係していることがあり、
遺伝性乳癌卵巣癌症候群
と言って、家系内に乳がんや卵巣癌などが好発し、遺伝子変異のある方は70歳までに卵巣癌になる確率が40%に上る、というものです。
そのため、ご家族に癌の方がどれだけいるか、というのは非常に重要な情報になってきます。
あまり離れた血縁の方の情報までは不要なのですが、少なくとも第1度近親者(兄弟姉妹、親、子)と第2度近親者(祖父母、おじ/おば、めい/おい)の情報は大切になってきます。
そして、次のような方々は、乳がんや卵巣癌になる遺伝子を持っている可能性が20~25%以上あり、遺伝学的リスク評価を考えてもいいかもしれません。
・過去に乳がんと卵巣癌になっている方
・卵巣がんになっていて、第1度/第2度近親者に卵巣癌か閉経前乳がんになった方がいる場合
・50歳以下で乳がんになった方
・第1度/第2度近親者に卵巣癌になった方がいる場合
こういった方々の遺伝学的リスク評価としては、血液検査でDNAを調べるのですが、保険が使えないので自費での検査になってきます。
費用に関しては、各病院で異なってくるため、以下のサイトでお近くの病院を探してみてください。
特に「卵巣癌」に関しては、よくある「婦人科がん検診」の対象にはなっていないことに注意してください。
というのも、卵巣癌自体を効果的に見つける検診方法というのがないのです。
「お腹が大きくなってきた」といって受診されたときには、もうすでに卵巣癌がかなり進んだ状態で・・・・という見つかり方をすることが多く、「毎年子宮がん検診を受けていたのに・・・」と言われることもあります。
卵巣癌は、早期発見が非常に難しい病気なのです。
ただ、遺伝子検査をして、遺伝子変異のあった方を対象に前もって卵巣・卵管を摘出した場合、卵巣がんと卵管がんのリスクが5分の1に減った、というデータがあります。
(Rebeck TR,Kauff ND,Domchek SM:Meta-analysis of risk reduction estimates associated with risk-reducing salpingo-oophorectomy in BRCA1 or BRCA2 mutation carriers. J Natl Cancer Inst 2009)
アメリカでは、遺伝子変異のある方は、前もって卵巣・卵管を摘出した方がいいと言われており、仮に手術をしない場合でも、ピルを6年以上飲むことで卵巣癌のリスクを4割減らせる、とされています。
(Whittemore AS, et al.: Oral contraceptive use and ovarian cancer risk among carriers of BRCA1 or BRCA2 mutations.)
卵巣・卵管を前って手術することは、妊娠・出産に関わることですし、更年期症状にも関わってきます。また、保険では認められない手術なので、自費で数十万円の金額がかかることにもなります。
ピルも確率は低いですが副作用があります。
どの方法を選ぶにしても、デメリットは伴いますので、家系的に自分が癌のリスクが高いかどうかをチェックするところから始めてみてくださいね。
子宮のポリープと言われたら
子宮がん検診や、おりもの検査で婦人科を受診した時に
子宮のポリープ
と言われることがあります。
子宮のポリープは、大きく分けて二つあって、ひとつは
子宮頚管ポリープ
というもの。そして、もうひとつは
子宮内膜ポリープ
というものになります。
ここでは、子宮頚管ポリープについてまとめたいと思います。
まず、基本的な方針としては、切除して顕微鏡で診る検査に回すことになります。
というのも、ポリープ自体は良性腫瘍であることがほとんどなのですが、ごくごく稀に悪性のもの、つまり癌が含まれることがあるため、見つけた場合には切り取って顕微鏡で詳しく診た方が安心、ということになります。
だいたいのポリープは茎の部分が細くて、ねじるだけで簡単に取れるので、特に麻酔もなく、外来で簡単に取れることが多いです。
ただ、茎の太いポリープだと、外来では簡単に取れないので、入院して手術が必要になることもあります。
次に、子宮内膜ポリープについてまとめます。
子宮内膜ポリープは、子宮の奥にあるポリープなので、超音波検査をして初めて見つかります。
そのため、いわゆる「子宮がん検診」では超音波検査をしないことが多いので、検診だけでは見つからないことがあります。
ただ、この内膜ポリープも上で説明した頚管ポリープと一緒で、ほとんどが良性なので、不正出血などの症状があったり、不妊症の原因になっている可能性があったり、悪性の可能性があったりすると手術して取ることになりますが、そうでなければ経過を診るだけになります。
内膜ポリープ自体は、1㎝以下であれば良性の可能性が極めて高いのですが、大きくなるにつれて癌の可能性も出てくるので、経過を診ることはとても大切です。
以上、ポリープについてまとめてみました。
がん検診で指摘されるポリープは、最初に説明した「子宮頚管ポリープ」であることがほとんどです。
また、婦人科医にとって「ポリープ」は本当によくある疾患なので、結構気軽に「ポリープがありますね」と言ったりします。
基本的には良性のものがほとんどなので、あまり気にする必要はないのですが、ポリープが見つかった以上は、やはり「精密検査」という方針になることが多いので、「まぁ、大丈夫だろう」と放置することがないように気を付けてくださいね。
生理の量が多いけど薬は飲みたくない方へ
普段の生理の量が多くて、貧血もあって、ピルやディナゲストを勧められているけど、毎日飲むのは大変だし、、、という方に向けて、今回は書いてみたいと思います。
生理の量の多さには、原因がいろいろあります。
子宮筋腫が子宮腺筋症が原因の場合、手術をして筋腫や子宮そのものを取ってしまうのも一つの選択肢です。
また、ピルやディナゲストなどの内服薬を使って、出血の量を減らすのも一つの選択肢です。
今回は、それとは別の方法で
MEA
という方法について書いてみたいと思います。
MEAとは
MEAとは、
Microwave
Endometrial
Ablation
の略で、日本語では
マイクロ波子宮内膜アブレーション
と言います。
マイクロ波というのは、簡単に言えば「電子レンジ」の理屈で熱を発生する仕組みです。
子宮の中に太さ1㎝程の棒を入れ、その先端からマイクロ波によって熱を発生し、棒の近くの子宮内膜組織を焼いてしまおう、という治療法です。
こうすることで、焼かれた子宮内膜からは出血することがなくなり、生理の量が減る、という仕組みになります。
* MEAができる人は?
上で書いたように、子宮内膜を焼いてしまうので、
妊娠を考えている人は受けられません。
子宮内膜は妊娠にとって非常に大事な部分ですので、これから妊娠したい人は、子宮内膜を焼くわけにはいかないのです。
次に、子宮内膜の部分に癌がないこと。
内膜を焼いてしまうので、そこに癌があった場合は、診断がつけられなくなってしまうので、MEAをする前には、子宮体がん検査をして、癌がないことを確認する必要があります。
最後に、子宮の大きさ的に子宮内膜を焼けるかどうかの確認が必要になります。
子宮腺筋症などで、子宮が非常に大きい方の場合には、MEAの棒が全体に届かなくて、一部の内膜しか焼けずに効果が薄くなってしまいます。
また、逆に子宮の壁が薄かったりすると、内膜を焼いた熱が子宮の外側に届いてしまって、子宮の周りにある腸にまでダメージが広がるので、ある程度の子宮の壁の厚さが必要になってきます。
これらの条件を満たしている方は、MEAも選択肢の一つになってきます。
子宮そのものを摘出したり、筋腫を取ったりすると、1週間近い入院期間が必要になることが多いのですが、MEAであれば、3日前後の入院期間で済むことが多いのも魅力ですね。
術後は、お腹の痛みが少しあったり、水っぽいおりものが数週間続くことはあります。
また、内膜を焼いたのに、ある程度組織が再生してしまって、再び出血の量が増えてきてしまうこともあります。
私自身は、腺筋症で生理の量がすごく多くて、ピルやディナゲストの治療がうまくいかない患者さんにMEAをしたことがあります。
その方は、それまでは貧血の内服薬で何とかなっていたのですが、ある時の生理でものすごく出血が増えてしまって、外来にフラフラしながら受診されました。
貧血の数字は
3
まで下がっていました。
ちなみに正常であれば、10以上。。。
3だと、正直死んでてもおかしくない数字です。
おそらく、徐々に数字が下がってきていたので、何とか体が耐えていたのでしょう。
そこで、緊急輸血をしたのですが、出血が収まる様子もなく、緊急でMEAをすることになりました。
物理的に内膜を焼いてくるので、効果は抜群。
次の日から全く出血することもなく、元気になって退院されました。
生理の量が多いけれど、薬は飲みたくない、もしくは、副作用などで薬が飲めない方、
そして、子宮を取ることにも抵抗がある方には、
MEA
という方法は、一つの選択肢になると思います。
ちなみに、このMEAという治療法ですが、どこの病院でも出来る訳ではありません。
私が以前働いていた病院は、県内で1か所しかやっていなかったので、県内はもとより、県外からも紹介されてくることがありました。
当院の近くですと、東邦大学大森病院にてMEAをやっていて、ご紹介できますので、気になる方はご相談にいらしてください。
医者が文章を書く、ということ
先日、ある健康サイトの監修を頼まれました。
少し前にいい加減な情報を書いた記事を量産して問題になったサイトがあって、あまり「健康サイト」に対する良いイメージはなかったのが正直なところです。
また、マスコミなど取材をする立場の人達は、取材された人の考えを伝えるのが目的ではなく、取材した側の伝えたい内容に沿うように勝手に監修するのが仕事だと個人的には思っています。
その点が不安だったのですが、こちらで監修した内容をしっかり反映してくれる、との話をいただき、ひとまず監修させてもらうことにしました。
まず驚いたのは、1から記事を作り上げるのではなく、すでに誰が書いたのかわからないような「医療記事」が何十件もあったということ。
最近、ちょっと調べ物をしようと検索すると、「一般サイト」ばかり無数に出てくる理由が何となくわかりました。
最初の数件は、それほど問題になるような内容はありませんでした。もちろん、素人さんが書いたんだろうな、という簡単な用語の間違いは沢山あって、そこを細々と修正していたのですが、、、
徐々に、「そんなこと、どこに書いてあったの?」っていう内容がチラホラ目立つようになりました。
正直、別に「素人さん」が書いた記事なら、いい加減な事が書いてあっても、「実害」がなければいいと思うんです。
例えば、肩こりの原因として霊が憑いている、とか。
別に、「あぁ、霊が憑いていたのか」と思った人が、除霊に行ったところで、特に何も問題にならないですし。
でも、「医師監修」の記事で、そんなことが書かれていたらどうでしょう。
「医者がそう言ってたんだから」と信じ込んで、全国の医療機関にそういう患者さんが溢れ返るかも知れません。
いい加減な記事を書くと、全国で頑張っている先生方に多大な迷惑がかかります。
それは、一人当たりの診察時間の延長につながり、結局は受診している全ての患者さんの待ち時間の増加になってくるのです。
実際、「ネットにはこう書いてあった」と不安になって受診する患者さんを沢山診てきました。
なので、「いい加減」な内容は「医師監修」の記事にはあってはならないと思っています。
極め付けは、「妊娠後期に胎動が弱まることは正常なことで問題はない」と言い切っていたこと。
さすがにこれは見過ごすことは出来ません。
問題ないことが多いけれども、赤ちゃんが苦しいサインであることにも気を配らなければならない「医師」が、「正常だから問題ない」と言い切っていいはずがありません。
それを指摘したのですが、「記事の目的は、読んでいる人に安心を与えることです」と返されてしまいました。
これが、「一般の人」と「医療従事者」の違いなんだと痛感しました。
我々医師は、最悪の事態を防ぐのが大事な仕事です。そのように頑張っていても、防ぎきれなかったツライ想いを皆んなしています。
だからこそ、「安心を与える」ためには、しっかり検査をして確信を得るのが大事だと考えています。
それでも、いくら検査しても100%がありえないのが「医療」なんです。
そんな「医療」を、たった数行の文章で「安心を与えられる」と思っているんだとすれば、それは「医師監修」の手から離れるべきだと思います。
なんてことを思いつつ、「監修」を続けていたら、運営サイト側から「もう結構です」との連絡が入りました。
根拠のないことを書いていたので、根拠を教えてください、と言っても、「読んでいる人がわかりやすい言葉で安心を与えるのが目的」という返事、、、
読む側に耳触りの良いことを書いてアクセス数を稼ぐのが目的で、それによって患者や医療側がどうなるかは、二の次なんでしょう。
確か、アクセス数を稼ぐためには、それなりの文字数が必要だったと思います。文字数を稼ぐため、記事を量産するために、根拠のないことでも、とりあえず「日本語」を「数多く」並べる姿勢のようでした。
直すべき部分を直さないなら、こちらとしても監修を続けることはできないので、そちらのサイトの監修は続けないことになりました。
マスコミもそうですが、「伝えること」を仕事にすると、「お金」が絡んできて、「本当に伝えないといけないこと」と「仕事として伝えること」にはギャップが生じるんだなと、改めて実感しました。
こちらのブログでは、出来るだけ「正しい」内容を書きたいと思っていますので、何か違うんじゃないか、と思われることがあれば、どんどん指摘していただければ幸いです。